この世界を包んでいた流れがほんの少し変わったような気がした。レインは正確に感じ取る術を持ち合わせているわけではないが、何かが変わった――それだけは感じていた。
恐らく、レガリアが消えたのだろう。直に見てはいないが、そう確信していた。レイラが打ち倒したのだろう。国の為でもなく、己の為に――レイラがどう動こうが今更何も言うつもりはなかった。
だというのに、何故今更になって己の行いを虚しく思うのだろう。レガリアが消えたというのに、本来なら喜ぶべきところだというのにレインの気持ちは晴れやかなものではなかった。レイラに任せてしまったからか――いや、きっと違う。この予感はこの胸騒ぎはそういった簡単に言語化出来るものではない。
そう思った時――頭に何かが入り込んできた。稲妻のようなものが脳内を走っていく。
『ふむ、運命が変わったというのに、何だかお気に召さないようだね』
目を開けたら、宇宙のような空間が広がっていた。
『誰だ……お前は。ここは何だ』
『君の意識の中さ。夢のようなものだと思ってくれて構わない。僕はユラギ――ちょっとだけ顔を見せたこと覚えてないか。ほら、レガリアが手紙を送った時の話』
『あの得体のしれない奴か……今更何の用だ。恐らくレガリアは消えただろう。お前もあるべき場所に帰るんだな』
『その場所がヴィオレットだからいるんだけどね。ヴィオレットの王子である君を差し置いて、レイラにだけ挨拶するのも何か無礼なのかなーって思っただけから』
『……! レイラはどうなったんだ!?』
『だいじょーぶ。今はまだ問題ないさ。きっともうすぐ君達の前に現れるだろう』
“今は”というユラギの言葉に不吉な予感を覚える。そもそも、ユラギとは一体何なのか――レイラと接触したというのなら、レイラはユラギの正体について知っているのだろう。
『色々考えるのも悪くはないけど、気負いすぎると周りが見えなくなっちゃうよ? レイラも似たような感じだし、ちょっと心配してたけど何とかなりそうだから良かったなー』
『それで、お前は何がしたいんだ』
『この世界を見守る者――グラスと似たようなものだと言えば分かりやすいかな。力そのものを司る存在――かつては、この地を創ったこともあった魔導士でもある……とでも言えばいいかな』
『……その話が真実だというのなら、レイラと同じヴィオレットの血を継ぐ者に対して挨拶周りに来たということか』
レインはユラギから顔をそむけた。目の前にいる者がヴィオレットなら堂々と顔向けなど出来るはずがない。自分の犯した罪が揺り起こされる。
『俺はヴィオレットを終わらせてしまった。報いによって――滅ぼしてしまった』
ユラギの話が本当なのかは分からない。それでも、懺悔したかった。立ち止まらずに進み続ければ、何かが変わるそう思い込んでいた。
結果はクロエの言う通り、力が無ければ何も出来ない。強者は振り返らずに進むことは出来るだろうが、レインは強者ではなかったので破滅の道しかなかった。レイラを地獄に堕とし、両親を含めたヴィオレットの民すらも犠牲にした。それで得られたものは何か――何もない。なにも為せなかった。
『何者にもなれなかった。馬鹿な人間だ……俺は。俺の願いはただ毎日が何事もなく平和に終わればいい――それだけだったんだ。それなのに、自ら全てを壊してしまった……!』
『……何を選んだとしても、結果が変わらないと分かっていたら、君は何も選ばなかったのかい』
ユラギの言葉がレインに突き刺さる。何もしない――そんな選択肢はレインの中には存在しなかった。いつだって前だけを見据えていた。周りに何と思われようとも、己が信じた道を進み続けた。これまでの自分の行いを全て否定出来るほど、レインの覚悟は甘くなかった。
それこそ、レイラを地獄に堕としてでも成し遂げようとしたのだ。
『選んだこと自体は否定しないで欲しいね。輝きは前に進むものに降り注ぐものだ――後悔したいならすればいい。けど、ずっと燻ぶっているのは良くない』
『……国が滅んだとしても、お前はそう言うのか』
『永遠は存在しない。それほど愛着があったかって言われたら微妙だし。あの国はそもそも僕の安住の地として創っただけで、そこに勝手に人が集まって出来た場所だからね』
『……出来れば聞きたくなかった話だな』
国の成り立ちの真相を聞いたレインは少しだけ顔をしかめる。恐らく、ヴィオレットはかなりの変人だったと思われる。ユラギがこんな調子なら、そこまで大差無いだろうと何となく思ったのだった。
『ま、とにかくどんな困難があったとしても、君がこの世界で生き続ける限り終わりはしないってことさ』
『分かってる。弱気はこの場所に置いていこう。過去を抱いて、未来に進む――俺はこの出来事を一生忘れない』
終わってしまったことは悔いても仕方がない。何度転んでも立ち上がり続け、己の信じた道を進む。レインが出来るのは愚直な生き方だけだった。
『良い輝きだよ。君達の行く末……見届けさせてもらうよ。終わりの果てから――』