ラパンはひたすら闇の中を彷徨っていた。この感覚はレイラと出会う前に近いものがあった。死ぬのが怖くて、それでも死にたいと思いながら、惰性で生き続けてきたあの頃――

――どうして、みすてたの。
――いたいよ。なんであなたはいきてるの。
――ずるいよ。おまえばっかり。
――くるしいよう。あついよう。

(違う。助けようとして……違う。違うんだよ! ねぇ……)

――しんじゃえ。
――おまえもしんじゃえ。
――いっしょにいこう。
――こわくないよ。いたくないよ。

 悪夢の中に囚われたラパンは独り泣き叫んでいた。何度も謝り倒し、何度も懺悔した。それでも耳鳴りのごとく、声はやまない。ラパンを責め立て続ける。ラパンが克服したと思っていても過去はどこまでもついてくる。その証拠に今でもラパンは振り切れずに絡めとられていた。このまま飲まれてしまえば、死んでしまえば楽になるだろうか――そう思いかけたが首を横に振るう。あんなにも死に場所を求めていた自分がどうしてここまで来られたのかを思い出す。

(つッ……こんなところでくたばってたまるかッ!!)

 死にたいという気持ちは変わらない。けれどもそれは今ではない。この世界には何の期待もしていない。だからこそ、この世界を変えてくれるかもしれないレイラについていくと決めたのだ。ラパンはレイラが作る未来を信じてここまで来たのだ。過去に引っ張られる暇は無い――誰に何を言われようとも、自分の決めた道を進むだけだ。

――ねぇなんで、生きてるの。

(……死にたくないからに決まってるでしょ)

――あれだけ死にたがってたのに、今なら楽に死ねるよ。そのまま目を瞑れば、永遠に眠れるよ。

(悪いけど、寝ている場合じゃないの。私にはやるべきことが――帰る場所がある!!)

 そういいながら、ラパンはまとわりつく何かを勢いよく振り払った。すると、霧が晴れたかのように心が少し軽くなった。ホッとしたのも束の間――

(な、何!?)

 今度は全身を覆いこむように靄のような何かが纏わりつく。振り払おうとしても、次から次へ絡みついて離れない。靄はいつしかラパンの全身を覆いつくしていく。精神攻撃でどうにもならないと分かった途端に物理的に殺そうと切り替えてきたのかもしれない。肉体を強化して振り払おうとした時、ラパンの耳に懐かしい声が聞こえてきた。
 
――ごめんね。迎えに行けなくて、怖い思いをさせてごめんなさい……もう大丈夫よ、貴方は一人じゃない。
――お前を見捨てたりしない。いつまでも愛しているよ。一緒に行こう。

 それはラパンの両親の声であった。朧気ながらも声は覚えていた。温かな声にラパンの時は止まる。

(おか、あさん。おと、うさん……)

 優しい光が見えたような気がした。そこにいないはずなのに、涙が止まらない。

――こんなにボロボロになって……でも、もう休んでいいのよ。貴方は十分頑張ったわ。

(あ、あ…………)

 抱きしめられているような感覚。ラパンはいつまでもここにいたいと思ってしまった。己に絡みついているのは、優しい悪夢。醒めないほうが幸せな夢――現実では二度と手に入らないもの。お菓子のように甘い夢――それでも幻影が見せる愛は抗えない者だった。

(駄目、なのに……ど、して)

 心は抵抗しても体は動かず底なしの闇に沈んでいく。悪魔がラパンを手招いていた。クロエの魔法は徹底的にラパンを追い詰める。彼女の黒魔法はかかったら最期、骨の髄まで溶かされていくしかない。心が強ければ魔法など跳ね返せたかもしれないが、ラパンの心はそこまで強くはなっていなかった。ちゃんと向き合っていたはずなのに、これでも足りないというのか。どこまで苦しみ続ければいいのだろう――先の見えない闇に視界は徐々に蝕まれていく。

 ラパンが諦めかけた時、彼女の視界に一筋の光が舞い込んできた。蜘蛛の糸のようにか細い糸は、ラパンの目の前に垂れていく。