「はぁ、はぁ……」

 メロディアは氷の刃で攻撃していたがアルノは華麗に避けていく。相手は全く攻撃してこない。ひたすら避けるだけだった。

「こっちの消耗狙ってるみたいだねぇ~はは」
「謙虚そうな態度の割には狡猾ね……」

 メロディアの攻撃が止んだ途端、アルノは攻撃を仕掛けてきた。彼の術は傍からは見えにくいが、様々なボタンがついた手のひらサイズのコントローラーで術を起動しているようだ。恐らく、杖などの魔法や魔術を補助する魔法具の一種だろう。かなり使い勝手がよさそうで、ミレドはかなり興味津々だった。

「面白い魔術だよね~その道具って誰でも使えるのぉ?」
「使える。けど、自分用にカスタマイズしているのでそのままだと使いにくいかもしれない」
「普通に返答がもらえるとは。何だか調子が狂うわね……」
「実質オリジナル武器ってことかぁ~倒したら戦利品としてもらっていこうかなぁ~」
「好きにすればいい。勝てたなら、の話だけど」

 アルノは淡々と魔術を展開して、ミレド達を追い詰めていた。空中に並べられた魔法陣からは間髪を容れずにレーザーが放たれる。だが一直線の為、軌道は読みやすい。当たったら蒸発しそうなレベルだが、当たらなければどうということはない。

「ふーむ……」
「相手の結界のせいか、術の出力が悪いわね」
「魔術は影響受けやすいから仕方ないねぇ~」

 この創造世界は魔術を大本にした結界である。魔法であれば基本的に自身が持つ魔力で魔法を起こすので影響は少ないが、魔術は空間も含めてそこにあるもの全てを利用して構築する為、結界内だと影響を受けやすくなる。さらに自身が有利になるように設定も出来るので、不利になりやすい。

「塗り替えられるほどの結界……は無理そうかしら」
「魔法も混じってる上に、構築の難易度が高いから無理だね。結界とは言っても、もはや一種の異界に近いからねぇ……」

 たとえ、ミレドとメロディアが力を合わせたとしてもアルノ達が創り出した結界を塗り替えることは不可能に近かった。力の差はもちろんだが、相手の創り上げた世界を崩す為の術とそれを上書きする術を短時間で構築しなくてはいけない。それに、相手は魔法と魔術を駆使して結界を構築している。こちらには魔法使いがおらず、魔法の上書きが出来ない。結界を塗り替えるのは、現実的な話ではなかった。

「面倒くさいわね……本当。面倒だわ」
「苦しまないうちに、死んで欲しい」
「どんなに面倒でもねぇ……死に場所くらいは選ばせてもらうわ。少なくとも今ではないことは確かね」

 メロディアはアルノの足元に魔法陣を展開し、氷の柱を出現させた。
 しかし、アルノは防御の陣を発動させたのかシールドのようなもので攻撃を防いだ。至近距離の攻撃ですら瞬時に防ぐ芸当にメロディアは、忌々しいものを見る目で舌打ちをした。

「あの魔具も大概面倒だね。面倒づくしだねぇ~」
「いちいち言わなくてもいいわ。これで相手の傾向は分かってきたかしら」
「じゃあ、答え合わせとして……様子見してみようかぁ」

 メロディア達は攻撃を止め、相手の出方を窺う。予想通りメロディア達が攻撃を止めた後、アルノは術を発動させてきた。色んな場所から、ランダムにレーザーを放つ魔術に、植物の蔦のようなものが追いかけてくる術もあった。後は結晶のような弾を飛ばしてきたりもした。
 こちらが攻撃すれば、相手は防御に徹し、逆に攻撃を止めたら、攻撃が激しくなる。長期戦を想定しているようだった。

「そうだ。向こう側の様子が見たいからちょっと攻撃しててよ~」
「分断されてるじゃない。向こうからの助けは期待しない方が良いわよ」
「そうじゃないよぉ~ちょっと確かめたいことがあるんだよねぇ~」

 ミレドは意味深にアルノの方へ視線を向けると、メロディアはすぐに察したようにうなずく。

「……そうね。確かに私も少し知りたいことがあるわ。相手にバレないようにしなさいよ」
「分かってるってぇ」

 ミレドはメロディアがアルノに攻撃し始めたのを見ると、少しずつ距離をとっていった。意図がバレないように、多少の攻撃を交えつつ、ラパン側との境界線付近まで接近した。結果的にアルノは挟まれたような形になっており、かなり固い防御壁を展開した。

(ふ~ん。なるほどねぇ)

 ミレドは背後まで影響が及ぶくらいの術で、アルノを攻撃した。黒い触手のようなものはミレドを中心にして円形を作り大きく伸びていく。伸びた触手はそのままアルノへ襲い掛かっていった。
 だが、メロディアの攻撃も来るので、アルノはメロディアへ標的を変更する。その隙をついて、ミレドは渾身の力で背後にある壁へ攻撃を仕掛けた。攻撃は壁に吸収されたかのように消えていった。ミレドはその結果を見て、納得したのだった。ミレドが飛ばした攻撃には解析の意味合いも含まれていた。ミレドはメロディアへ合図を出す。
 アルノはというと、ミレド達の意図に気づかないまま攻撃を防いでいた。

「お前達はどうしてそこまで頑張る。俺達に勝ったとしてもレガリアには勝てないのに」
「……貴方に殺されるのは死んでもお断りよ。面倒でもプライドぐらいはあるわよ」
「ボクはレイラ様を信じているからねぇ~こんなところで野垂れ時ぬわけにはいかないんだよねぇ~」

 ミレドは世界がどうなろうと知ったことではない。レガリアに支配されるならそれでも構わない。それでも、ミレドはレイラの可能性に賭けていた。彼女なら自分が見たことのない世界を見せてくれると信じていた。レガリアがどれほどの力を持っていたとしても、ヴィオレットの血を引き、純粋なグラスの力を宿すレイラには敵わないだろうと思っていた。あくまでミレドの想像でしかないが、不思議とそんな気がするのだった。

「逆に、おに~さんはどうしてそこまで頑張るのさ。支配されるって分かってるなら、適当に幕引きしちゃえばいいのに~」
「クロエが生きている限り、俺は生き続ける。クロエさえいればいい!」

 クロエの側にいられるなら――アルノの言葉にメロディアは、一つの可能性がよぎる。明らかに声のトーンが少し上がって、アルノは真っ直ぐこちらを睨んできた。アルノはクロエのことをかなり慕っているようである。どのような思いなのかは、この際どうでもいい。クロエの存在はアルノの中でもかなり占めていると思われる。
 ミレドはアルノの様子を見ながら、ふっと笑う。アルノはそんなミレドの表情を見て一瞬だけ訝しむ。

「良いよねぇ。そういうのさぁ~」
「……クロエの為――ねぇ。随分と熱いじゃないの。なら一緒に死ねたら本望じゃない?」
「クロエは死んでいないし、死にたがっていない。なら俺も死なないだけ」

 クロエが生き続ける限り、アルノも生き続ける。それならば、クロエが死んでしまったらどうなるのだろうか――聞くのも野暮な質問だろう。だからこそ、ミレドは腹の底から笑う。この手の手合いは核を殺してしまえば無力化しやすい。

「あははっ。良いねぇ。良いねぇ。上手くいけば面白いものが見られるかもしれないよ?」
「それで、上手くいきそうなのかしら」
「ここにある障壁もさすがに簡単には崩れなさそうだったけど、この結界よりは脆いねぇ。攻撃した際に仕掛けておいたよ。後は向こう次第かねぇ~」

 アルノはこそこそと話す二人を不審に思ったが、そこまで気に留めなかった。再び、術を発動させメロディア達に狙いを定める。

「何を話しているのか知らないけど、倒されるつもりはない。クロエの為に死んで」

 先程とは違い曲線を描くレーザーとなり、不規則に動きながら執拗にメロディア達を追いかけてくる。メロディアはアルノの足元に向けて氷柱を放った。操作するのはアルノ自身なので、彼に狙いを付ければ自然に動きは鈍くなると思った。結果はその通りになった。

「やっと本気を出してきたってところかしら? 舐められたものね」
「そんなこと言ってると足をすくわれちゃうよぉ~」

 積極的に攻撃を仕掛けるメロディアに対して、ミレドは援護と防御に徹していた。ミレドはとにかく時間を稼ぎたかった。メロディアはミレドの意図を分かっているようだが、あまり考慮はしていないようだ。恐らく、計画が駄目だったときに少しでも早く潰せるように体力を消耗させているのだろう。

「鬱陶しいな」

 アルノはメロディアのみに狙いをつけたようで、執拗に攻める。メロディアは風と氷の術を組み合わせて攪乱するが、それを裂くようにアルノの攻撃は激しさを増していく。

「……頃合いかなぁ」

 ミレドは二人の攻撃を避けながらアルノの背後を見て不敵に笑う。アルノはまだ気づいていないようだった。ミレド達を隔てる壁の向こう側で起きている異変に――