レイラの意識は現実から遠く離れた場所へ飛んでいた。封印を解いた時の感覚に近いものがあった。
「輝きを見せろ。もっと足掻け」
「そんなこと言われてもですね……私は戦闘素人ですよ? あんなのに対応出来る普通の人がいたら知りたいですよ!」
「普通の人であることをやめればいい」
「何を、言っているんですか?」
今でも十分、人から遠ざかっているような気もする。災厄の力を宿しているという時点で普通とは程遠い。特殊な存在であるかもしれないが、それでも戦闘経験の差は特殊な力で埋められるほど簡単なものではない。
「我の力を満足に使えない時点で、ただの人間と変わらん。人の子が輝きを見せ願えば我はいつでも力を貸す。我は力そのものである」
「じゃあ、この傷も回復してすごい力とかも湧いてきたりするんですか?」
「人の子が願えば何でも出来る。だが……その為にはお前の輝きを見せてもらう必要がある」
グラスの言葉は優しく、それでいて元には戻れない道へ誘うような声音であった。自分が手を伸ばせば、完全に人からかけ離れた存在になるのかもしれない。災厄の塊――化身として。その時、自分は自分でいられるのか。グラスの言う輝き――狭間の中で揺らぐ心。レイラが彷徨っていると、どこからか声が聞こえてくる。
――このまま眠っても構わないけど、君は本当にそれでいいのかい?
「この、声……」
聞きなじみのある声だった。どうしてここまで聞こえてくるのだろうか――そんなこと、今はどうでもいい。レイラは自分のやるべきことを思い出した。
「……ふむ、介入してきたか。そこまでして叶えたいか――」
「それって――」
レイラの目の前にはいつの間にか光の道が出来ていた。
まるで、ここを辿れと言っているようであった。
「さて、ここまで来た人の子よ。何を選ぶ」
グラスが見定めるように問いかける。もう迷う必要はなかった。自分の為すべきこと――願い、輝きを胸に抱きしめる。
「待っている人がいるのなら。私の道は一つです……それに」
レイラの中に迷いはなかった。すぐに諦めてしまうのは悪い癖だ。大切なことすら放り出して、忘れそうになっていた。何回だって何度だって、向き合いたいと願った。あの優しい声を聞いた瞬間――不安は彼方へ消え去った。
「願いを、叶えると約束しました」
闇の中を泳いでいた時を思い出す。そこに比べて光の海は対照的だった。飲み込まれそうなのは同じだが、ひとたび願えば力が溢れてくる。闇の中とは比べ物にならない程、動きやすかった。道なりに進んでいくと、ひと際大きな光を放つ場所があった。
「あれが……」
レイラは光の渦の中に飛び込んでいった。去り際に見たグラスの表情は相変わらず不愛想なものだったが、少しだけ和らいでいるような気がした。
グラスはレイラの中に輝きを見出したのか――グラスの求めるものになり得るものだったのか――答えは現実に戻らねば分からない。
「今度こそ私は絶対に諦めないし、逃げない!」