中へ入ったレイラはあまりの暗さに身震いをした。辺りを見渡すと光っている場所があったのでそこへ向かうことにした。ここまで来て人の気配がしない。本当にレインはいるのだろうか。そこでようやく罠という可能性もあることに思い至る。だが、あのメロディアを見ているとそんなことをするとは到底思えなかった。
「大丈夫、大丈夫。何もないのが一番よね?」
祭壇らしきものが照らされていた、このまま封印を解けばここに用はない。宝珠の輝きも見えていた。光は間違いなく本物であると確信させた。
レイラが祭壇まで一気に向かおうとした瞬間――
「そこまでだ」
レイラが振り返ると同時に、風の刃が飛んできた。刃だった風は爆発的に規模を広げ、レイラはその中に取り込まれ壁に叩きつけられた。
「がっ……!? にい、さ……?」
意識が昏倒する中、レインの姿を探した。体勢を立て直し、よろよろと立ち上がる。追撃はこないようだった。レイラが立ちあがると共に部屋に明かりが灯された。
そこでレイラは初めてレインの姿を視認出来た。レインは剣を構えており、明らかに話し合える雰囲気ではなかった。いきなり攻撃してきたということは、向こうは話し合うつもりなどないのだろう。
「久しぶりに会えたというのに、随分な挨拶ですね……私がここにいるのがおかしいですか? そんなに気に食わないんですか!」
「賊を退治するのは当然のこと」
「……賊呼ばわりですか。確かにそうですね。それ以外に言うことはないのでしょうか?」
「無い」
レインの声は動きを止めるくらい恐ろしく冷たいものだった。
「……兄様には無くとも、私はあなたに……兄様に聞きたいことが山ほどあります!」
レイラも魔力で創った剣をレインへ突き出す。こうなった以上、後には引けない。選択肢は戦って勝つしかない。
レインに比べたら技術も何もかも、劣っている状態でどこまでいけるか――ルーンとも契約を解いている今、どれほどの力を発揮出来るのか分からない。
けれども、ここで引くわけにはいかない。そんなことをしたら真実は闇の中である。誰にも邪魔されない今しかないのだ。
「お前はここで死ぬ」
「私が死ぬ、ですって?」
レイラは先に向かっていった。レイラのスピードは遅く簡単に避けられてしまう。全く戦闘の知識は無いが災厄の力を使えば押せるかもしれない。レイラの頭ではそれしか方法が浮かばなかった。魔力をそのまま放出すれば、盾にはなるだろう。
「どうした、その程度か」
しかし、レイラの甘い考えなどレインに通用するはずがなかった。レインは一歩も動くことなく剣を振り、風を起こす。風圧のせいでレインに近づけないでいた。ひたすら壁に叩きつけられレイラの体は悲鳴を上げていた。
(まだ、いける……はず!)
それでも、レイラの心は折れていなかった。あの時受けた絶望とは比べ物にならない。むしろ、見返してやろうと燃え上がっていた。自分がどのような道をたどってきたのか、今ここで示すときだった。
「殺すならさっさと殺せば良かったじゃない! そんなに私のことが嫌い!?」
レイラが大きく剣を振るうと、衝撃波が生まれた。それはレインに向かって走っていく。レイラ闇雲に何回も振るうが、レインに全て払いのけられてしまう。
「…………」
レインは黙したまま語らない。何を考えているのか――一向に答えは見えない。明確な殺意を向けられた以上、和解など出来るはずがない。対話の道をレインから閉ざしてしまった以上、それをこじ開けるのは困難である。
(一体、どうしたら……)
これだけの攻撃をしても傷一つないレインの姿を見て、レイラはいよいよ不安を覚えた。建物は頑丈でびくともしない。多少の無茶ぐらいは出来そうだったが、レイラの少ない経験ではどう活用するかまでは考えられなかった。考えている暇もなく、これまで一歩も動かなかったレインが動き出す。今度は直接レイラへ剣を振りかざす。その場しのぎで何とか防いだものの、レイラとは比べ物にならない程、力強く斬りかかってきた。
「死ぬかと思った……」
今は防いだがこれがいつまで持つだろうか。魔力が多いとはいえ、消耗が激しければあっという間に詰んでしまう。
レインは顔色一つ変えずレイラを見据えている。妹といえども、油断も容赦もしなかった。
「少しはやるようだな」
「剣はまともに学んでいませんし……分が悪いですよ。私はまともに魔法も使えませんし、はっきり言って最悪です」
喋っていないと相手の気迫に飲み込まれそうだった。自分はそこまで気乗りしないのに、相手は本気でかかってくる。自分を守るので精一杯だ。レイラは剣をがむしゃらに振りながら考える。レインはレイラを殺そうとしている。彼の実力なら今頃レイラは斬り殺されているはずである。
(まさか、本当は……なんて――)
頭の中で僅かな可能性がよぎる。それを見透かされたのか、気を取られレインへの反応が遅れ、思いっきり肩から腹にかけて斬りつけられた。
「いっ……あ……」
「殺すつもりがないと思ったか」
どこまでも冷たい兄の声にレイラの瞳はだんだん暗くなっていく。出血は止まらず、痛みでどうにかなりそうだった。血の海は広がっていく。普通の人間ならここで死んでいくのだろう。自分がまだ普通でありたいと思えば今この瞬間終わるだろう。ルーンの計画など捨て、煩わしい気持ちも全て消える。何も考えなくてもよくなる。
もう疲れた――振り回されてばかり、自分がここまで頑張る理由はどこにある。悪魔の囁きが聞こえてくる。何かがレイラを沼に引きずり込もうとしていた――
(あ、あ……もう無理かも)
レイラの意識は遠のいていく。わずかな希望さえ打ち砕かれ、失意の底に沈んでいく。
そんなレイラを見かねた存在が声をかけた――
『醜態をさらすな。我が見込んだ人間なのだから――人の子』
凛とした声。輝きを欲する力がレイラを呼びかける。
温かくも、力強い輝きにレイラは手を伸ばす。
『その為の力はすでにある。人の子……レイラ――貴様が選ぶのだ』