レイラが攫われた直後――ルーン達は急いでヴィオレットに潜り込んだ。警戒されているかと思いきや、そうでもなかった。指名手配されていてもおかしくはない状態だったがそれも無い。
「歓迎されていると思っていいのかしら」
「……それはないと思うけど」
「ヴィオレット……一度は来てみたかったんだよねぇ~それにしても、平和そ~だね。ゴタゴタしてそうなのに~」
「封印が解かれたなんて口が裂けても言えないだろうからね。国も混乱するし、ヴィオレットの信用にも関係してくるから」
指名手配はされてないようだが、それでも誰だか分からないように少し変装をしていた。
しかしその必要が無いくらい、ヴィオレットは平和で不穏な様子はなかった。モダンな街並みが広がっており、人々は活気に溢れている。大魔導士の聖地ということもあってか、乗り物も魔法で動いているものが多かった。日常生活の様々な場所で魔法や魔術が使われている。
「……魔法の食べ物って何だろう」
「観光したいなぁ~」
「いくらレイラが危害を加えられる可能性が低いからって、のんびりはしていられないわよ」
「その割には全力で楽しんでるみたいだね」
ヴェーダの手には、ピンク色のドリンクとオーシャンブルーのアイスが握られていた。お金はいつの間にか手に入れていたようだ。
「……いつの間に買ってたんだ。食い意地張り過ぎでしょ」
「のんびり迅速に楽しむのが一番よ」
「どっちかにした方が良いと思うなぁ~」
「……迅速に楽しむって何?」
「効率の良い娯楽施設の回り方みたいなものよ」
「それって本当に楽しめるのかなぁ? たまに疑問に思うよぉ~」
意味のない会話をしていると、ルーンは三人を置いてどんどん先へ進んでいた。
ヴェーダに構ってる余裕など無いと言わんばかりに、ルーンは一切見向きもしなかった。まるで何かに追い立てられるようであった。
「焦っているのかしら」
「……そりゃレイラちゃん殺されたらマズイし、焦るでしょ。そもそも計画を考えた張本人だし」
「でも、レイラ様が殺される確率は低いんでしょ~?」
「一回しか手合わせしていないけれど、あの魔術師の性格からして約束を破ることはなさそうよ。私がここまで言うことなんて無いんだから間違いないわ」
ヴェーダにはメロディアがそこまで殺しに積極的な性格だとは思えなかった。かと言って、油断は出来ない。アイスを平らげたヴェーダは親指で唇を拭った。
「目的が分からない以上、さっさと進んだほうがいいでしょう!」
「アイス食べてる人がいうセリフじゃないよねぇ~」
「……私は最初からそのつもりなんだけど」
各々の意見を交わした後、三人はルーンの背中を追いかけた。かなり先へ行ってしまっているようだった。ラパンの力があればどこへ行っても辿れるので問題はなかったが、それでも行き交う人々はどうにも出来なかった。完全に人を避けることは出来ず、様々な会話が耳に入ってくる。
『今日も大漁、大漁』
『最近、レイン様見ないねぇ。大丈夫かなぁ』
『何もないといいんだけどねぇ』
『主人が帰ってこないのよ。また酒場で酔いつぶれているんじゃないでしょうねぇ……まったく』
『魔法試験の勉強した?』
『噂は噂だしねぇ。あっはっは。あ、そうだ新しく出来た店が――』
『取れたての果物売ってるよー!』
何も知らない人々は、会話に花を咲かせていた。世界の破壊を望んでいる者がいるとも知らずに、今日も世界は平和に回っていた。災厄の魔女が復活したことも知らないし、自国の姫も復活していることなど誰も知らなかった。普通の人間には関係の無い話なので無理もなかった。知っている方が異端なのだ。
「すんごい情報統制だよねぇ~わりと気づきそうなものだけどぉ……」
「……封印ってヴィオレット付近にあったんだよね。誰も知らないんだ」
「ルーンも言っていたけれど、情報が開示されていたらヴィオレットどころか世界が大混乱よ」
ルーンに追いついたヴェーダ達はそのままヴィオレットの喧騒を抜けた。城の近くまで来るとさすがに人はまばらだった。
「……ホントにレイラちゃん大丈夫なんだよね?」
「たとえ何かあったとしても、今のレイラならタダではやられないだろうさ」
「へぇ。かなり信頼しているみたいじゃない」
「レイラならきっとやってくれるさ。たとえ何があっても。僕は……そう信じてる」
言い聞かせるようなルーンの言葉に若干、ヴェーダは引っ掛かりを覚える。まるで呪いのような言葉だった。世界の破壊を願っているのかそれとも――ヴェーダは一層、ルーンへの警戒を強くした。