マリエルが突然攻撃をやめたかと思ったら、急に魔法使いがこっちへ爆発を巻き起こしながら飛んできた。どうやら、身を隠すために爆破しているようで、どこから来るのかさっぱりだった。
「ひ、きゃああああッ!? 何ですかぁっ!?」
煙の中を手探りで進んでいたレイラは何かに、体を捕まれる。強い力にレイラは振り払うことも出来ずに、どこかへ引きずり込まれていく。
「レイラ!?」
ルーンが声をかけるも、時はすでに遅く煙が消える頃にはレイラの姿はなかった。煙が消えたと同時に、攻撃を止めていたマリエルが出てくる。
「あの子の目的は最初からレイラちゃんだったってことね。さっき知ったよ。私はここが無事ならどうでもいいの。ごめんねー」
マリエルは申し訳なさそうに謝った。マリエルならどうにか出来たかもしれないが、あえてやらなかった。レイラがどうなろうと、この島には関係の無いことだ。彼女は島と身内の安全を優先したのだ。
「……君はそういう人間だったね」
ルーンの表情にあまり変化は見られないものの、どこか落ち着かない様子だった。少し珍しいものが見られたとマリエルは思ったが、さすがに茶化すのは可哀想だと思い、心の奥にしまっておいた。
何が起こったのか、皆が把握していく中、ラパンがあるものを見つけた。爆発に紛れて魔法使いが落としていったものだと思われる。落としていったのは手紙で中身を見てラパンは少し驚いた。
「……レイラちゃん。多分無事じゃない? ほらこれ」
手紙には『ヴィオレットにて待つ』とだけ書かれていた。筆跡はかなり整っている。
「じゃあレイラ様はヴィオレットに一足先に行っちゃったってこと~? そんなぁ」
「……さっきはこんなの落ちていなかったし、わざと置いていったのかも」
「レイン殿下かしらねぇ。このタイミング……」
「多分違うと思う。この字――もしかしてメロディアか。うろ覚えだけど、見たことあるよ」
ルーンがメロディアの名前を呟くと、手紙は正解だと言わんばかりに砂の様にさらさらと消えていった。
「わざわざヴィオレットに向かうってのに、攫っていくとはね。何事も無ければいいのだけれど」
「行ってみないと分からないね。メロディアは進んで危害を与える人じゃないから、多分心配はないだろうけど……」
「さっさと行きましょう。何もしないっていう保証は無いんだから」
ルーン達は島から急いで出ようとしたがマリエルが口を挟んできた。
「謝罪ついでに言っておくよ。さっきの魔法使いには気を付けな。あの子、次元魔法の使い手っぽいからさー」
「だろうと思ったわ。島の仕組み上、普通に入ることは不可能って言っていたし。それしかないでしょう」
ヴェーダはすんなりと納得していた。島は正規ルートを知る者と、呪いをかけられた者しか入れない。ルートを使う場合は、所定の場所――封印の祭壇近くにある泉――に落ちるようになっている。マリエルは入ってきた者をそこで迎える。呪いの場合は訳も分からず飛ばされてくる。このケースは特殊な為、ほとんどあり得ないと言ってもいい。
マリエルの監視の目も全てを潜り抜けられる方法は一つ。それが次元魔法である。行ったことが無くても好きな場所へ飛べる他にも、移動魔法とは違い空間へ干渉し、結界などの術壁を潜り抜けられる特性を持つ。
「なんだか、馬鹿そうだったけどぉ。すごい人だったんだねぇ~」
「次元魔法だろうが何だろうが、ぶっ飛ばしてレイラちゃんは取り返す!」
ここまで来たら、何が来ようとも臆することはない。封印はあと一つなのだ。立場としては、こちらの方が有利だ。
「さて、ここにはもう用はないし。さっさと行こうか」
「はいはい。お帰りはこちらからどぞー」
マリエルは恭しくお辞儀をしながら、泉を指さした。
「ちっ……」
「……だろうと思った」
「うへぇ~」
ある程度予測はしていたが、さすがに自ら飛び込むという行為には躊躇いがあった。特にヴェーダはレイラがいないので苦虫を噛みつぶしたような顔をした。急がなければならないというのに三人は、誰が先に行くのか揉めていた。
「いつまでうだうだしてんの。ここに飛び込んで死ぬわけじゃないしっ! ほれッ!!」
マリエルがヴェーダの背中を蹴飛ばした。そして、次にラパンとミレドをまとめて泉の中に放り込んだ。
「さっさと放り込んでくれて助かるよ。僕がやってたら向こうでボコボコにされてたからね」
「汚れ役は引き受けてやったぜ……なんてなー」
マリエルは屈託のない笑みで笑う。どんな状況にあっても楽しむことを忘れないのがマリエルらしい。ルーンはそっと泉の近くまで寄っていく。これ以上ここにいても変な空気にあてられるだけだ。波の音も煩わしくなってきた。
「邪魔して悪かったね。僕はもう行くよ。さよなら」
「さよなら。ルーンちゃんの願い……叶うといいね」
ルーンが泉の中に沈んでいく。マリエルの言葉が届いたのかは分からない。マリエルは誰もいなくなった泉に近づき、水をすくった。水はマリエルの手をすり抜けていく。その様を見て、マリエルは一人笑っていた。
「……世界が変わるその時まで、ここでのんびり見物させてもらうよ。レガリアちゃん」