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「つぅ……う」
「大丈夫? かなりうなされていたけど……」
「だ、大丈夫です。ごめんなさい。えっと」

 レイラはルーンから気まずそうに目を背けた。本人に聞けと言われてもさすがに、今すぐにというわけにはいかなかった。

「……大丈夫なら良いけど」

 あまりにも不自然な態度だった為、不審そうな目を向けた。けれども、ルーンはそれ以上何も言わなかった。レイラにはそれがまた少し寂しく感じられた。

「おーおー済んだみたいね。にしてもさ、封印を解いたって感じしないよね。あ、レイラちゃんの中に全部行ってるのか。凄いなぁ。ヴィオレットの再来なのかねー」
「それって……あの魔導師のぉ~?」

 ミレドは興味深そうに尋ねる。レイラとしてはちょうどいいタイミングだったので、心の中でマリエルとミレドに感謝した。

「そうそう。ヴィオレットはその昔にさ、グラスの力を借りて各地の戦乱を治めたっていうじゃん?」
「え。それホントなのぉ~? 絵本だとそこまで書かれてなかったし、文献を調べてもそんなのなかったよぉ~」
「なんせ、私が若いころの話だ。噂話程度だよ。今はグラスの名前も知られてないから仕方ないね。誰かさんに規制されてるのかもねっ。きゃはッ」

 マリエルは事情を知っているような口ぶりだった。グラスよりもヴィオレットの話題に興味津々のミレドはマリエルに話しかける。

「もっとヴィオレットについて何か知らないのぉ?」
「君はヴィオレットが好きなのか。んーそうだね。それくらいかなぁ。さすがにヴィオレットと同世代じゃないからね。あっはっはっは!」

 ヴィオレットの伝承は千年以上前の話だった。マリエルは現代の人間よりも知識はあるが、全てを知っているわけではない。ミレドは残念そうな顔をしていた。レイラも内心、がっくりした。

「それこそヴィオレットの城にでも行けばなにかしら目ぼしいものがありそうじゃない。最後の封印はちょうどヴィオレットだし」
「家探しする前提ですか……」
「城でしょ。デカいでしょ? 当たり前でしょう。探索は冒険の基本じゃない」
「……そもそも探索できる余裕あるの? 兵とかいるんじゃない」
「公にはされてない話だ。そこにかけるしかないね。案外向こうも歓迎してくれたりして」
「つーか、城内の図書館に行けばよくね……」

 バドルは全く関係ないのに思わず口を出してしまった。バドルは慌てて、レイラから視線を逸らした。

「そうですよ。あれ? 城内に図書館があることをご存知なのですね。もしかして、ヴィオレットの出身ですか?」
「え、あ、まぁそんな感じだ。学生時代によく使ってたからな」
「そうだったんですね! こんなところに飛ばされてしまって……大変だったでしょう」
「あー……まぁ。慣れたら別にそこまで気になんねぇから。まぁ気にすんな」

 これ以上話すと、ボロが出そうなのでバドルは強引にレイラとの会話を打ち切った。マリエルはバドルのフォローをするように、帰れ帰れと促す。

「ここも別に安全ってわけじゃないし。さっさと行くなら行っちゃいなー」
「最初から最後まで自由ねぇ。貴方……」
「ヴェーダちゃんほどじゃないって。封印から復活して、首を狙うとか正気の沙汰じゃないよー」
「……貴方の分も覚えていたら、やっておくわよ」
「気前いいなぁ! じゃ、よろしく。楽しかったよ~ん! それじゃ――」

 帰還する為に泉の近くまで来ていた一行――しかしそこには立ちふさがるように人影が立っていた。

「おーおー人がたくさんいるし。誰が誰なのか分かんねぇや。ハハッ」

 その人物に今の今まで誰も気づいていなかった。それもそのはず島の異常は、突如訪れた。
 
「……誰!?」

 一番早く気付いたのはラパンだった。ヴェーダも魔力の気配を感じて臨戦態勢を取る。泉の前にはいつの間にか、謎の魔法使いがいた。栗色の髪の毛は風によく靡いている。挑発的な笑みを浮かべていた。

「マリエル……あいつ」
「あれ、こんなのいたっけ!? マジで誰。こわっ!? 魔法使いだらけだよぉ~」
「呼ばれてねぇし、当たり前だろ」

 魔法使いはけらけらと笑う。明らかに馬鹿にしているようだった。マリエルは怒りもせず、おちゃらけながらも様子を窺っていた。ヴェーダはというと、突然現れた魔法使いに少し動揺したが今は冷静さを取り戻していた。

「また面倒なのが来たわね」
「あれ……どっかで見たことあるような、気がするんだけど」
「知り合いですか?」
「いや、知り合いじゃないけど。なんだろ」

 知り合いかと聞かれてルーンは即答で否定した。どこか引っかかるようでルーンは考え込んでしまった。あの長い髪型ならどこかで一回は見たことありそうだが、そういうものでは無さそうだった。

「なぁマリエル。ここって、特別なルートか呪いでしか入れない場所じゃなかったのか」

 ざわつく中バドルは嫌な雰囲気を感じ取っていた。ただの魔法使いではないのは明らかだった。この場所に入り込んでいる時点でおかしいのだ。
 
「そうだね。理論上はそうなっているハズだけどーっ? まぁ、あの子の力が完璧でない可能性も無きにしも非ずってか~?」

 マリエルは異常事態が起きていることに気づいていた。最初は魔女の差し金かと思ったが、そういうわけでもなさそうだった。だとすれば、この島の存在を知っている何者かが、魔法使いを派遣した――外の人間のことを考えたって仕方ない。マリエルはここでサリーヌと一緒に静かに暮らしたいのだ。それを邪魔するなら叩き潰すだけである。

「魔法が使える世界だし? 不思議なことが一つや二つあってもおかしくないだろ。しっかし、シケた場所だな。もっと派手にならねぇかね。こんな感じによぉ」

 魔法使いが指を鳴らすと、どこからともなく轟音が響いた。何かが爆発したようなその衝撃に、レイラ達は思わずしゃがみ込んだ。

「これまた厄介な魔法だ」
「爆発魔法……耳がつーんってなるわね……」
「……耳がぁ」
「ラパン大丈夫~? ごほっ、煙くさいよぉ~最悪だぁ」

 皆、怪我はしていなかったがいきなりだったので、体勢が崩れていた。その中でマリエルだけは爆発に対応したようで、すぐさま爆破魔法使いの方に向かって蹴りを入れたが、魔法使いはそれを軽くいなした。

「君さぁ、私達に用があるわけじゃないでしょ?」
「おう、そうだぜ。それよりも、もっと本気見せてくれよ。すげぇ魔法使いなんだろ」
「年上の話は黙って聞けって教わらなかったの~? さっさと用事済ませて帰ってくれないかなっ!!」

 マリエルはそう言いながら雷撃を放つ。魔法使いはそれを爆破魔法で防いでいた。轟々と鳴り響く爆音に下にいる者達は思わず耳を塞ぐ。

「んなもんいらねぇし。それにあまりはしゃぐなとは言われてるんで、用を済ませたら帰るぜ。これでも穏健派だ」
「……の割には、派手にやってくれるじゃ~ん?」
「久しぶりに外に出たからなぁ。ちょっとぐらいはいいだろ?」
「ここを誰の場所だと思ってんのさ。勝手は禁止ーッ」

 久しぶりに外へ出たという言葉からして、どこかに捕らえられていた囚人か――マリエルは色々考えたが答えは出ない。出て行ってもらえるだけでいいのだが、目的が分からない。

「だったらちゃんと立ち入り禁止の看板でもつけとけっての。オレの場合は立てても行くけどよ」

 そういいながら、魔法使いは容赦なく爆炎を起こし続ける。このままでは、島が火事になってしまう。

「魔女に目を付けられたならともかく、こんな場所に好き好んで来る人間はいない。というかぁ、この場所普通の人間は入れないんだけど。どういうこと?」
「ンなもん、オレ様の魔法にかかればどうってことねーよ。それより、あんたは――か?」
「…………ふーん。なるほどねぇ。それなら最初からそう言ってくれたら良かったのに。君のお望みの相手はあっちだよ。ほらあの紫の――」
「話が早くて助かるぜ。燃やして悪かったな」

 マリエルはレイラ達がいる方へ指をさした。レイラ達は別に仲間ではない。騒動を巻き起こす原因があるのなら、さっさと目的を果たしてもらえた方が島やマリエルとって利益がある。このまま荒らされたら溜まったものではない。レイラ達には悪いが、マリエルはこれ以上の介入をしないことに決めた。サリーヌには魔法で伝えてあった。バドルと一緒にどっか遠くへ避難しろ――と。