「おーおー! みんな来たねっー!」
マリエルは元気いっぱいにぶんぶん手を振っていた。最初に来たのは一番距離が近かったサリーヌとレイラ。次に祭壇を目指していたヴェーダとバドル。最後に合流したのは遠くに飛ばされたラパンとミレドだった。
「みんな無事だったようで何よりです」
「怒るなら大体、この人せいなので僕に怒らないでね」
そう言いながらルーンはマリエルを指さした。マリエルは悪びれもせずに笑っていた。その姿をみたヴェーダやラパン達は何が何だかさっぱり分かっていない様子だった。なので、これまでの経緯を改めて整理しながら説明することになった。
――数分後――
「……大体、こいつのせいってことね」
「最悪な目に合ったわ。正直、一発殴りたいわよ」
「本が無事なら何でもいいやぁ~」
それぞれ思うところはあるものの、最初に食らった魔法でマリエルの実力を分かっているせいか戦闘にはならなかった。
「手荒い歓迎しちゃってほんとごめんねぇ。最近、きな臭いからちょいちょい敏感になってたわ」
「外界の情報が分からない割には、目ざといのね」
「まぁね~ここに来る使いが多くなってきたからね。何かしようとしているのは間違いなさそうかも?」
「私達に関係してくるんですかね」
「……今のところは大丈夫じゃないかな」
若干、ルーンの返答には間があった。ヴェーダはルーンの様子をちらりと見るが、特に動揺している様子はない。何を企んでいようが、邪魔するのなら消すのみ――ヴェーダの瞳は一層冷たくなる。
一方、他の者達は各々会話を交わしていた。特にマリエルはバドルに絡んでいた。
「いやぁ、それにしても。感動の再会が多くて泣いちゃいそうだねぇ」
「おい、余計なこと言うなよ。言ったら、俺が死ぬ」
バドルはマリエルの耳元でひそひそ呟く。ヴェーダから口止めされているので、マリエルがバラしてしまったら台無しだ。一応、マリエルはそれなりに空気は読んでくれるので納得してくれた。
それでも、バドルはレイラから視線が逸らせなかった。視線に気づいたレイラがバドルへ話しかけてくる。
「あの……私、何かしましたか?」
「い、いや。そういうわけじゃねぇ。すまん……気にしないでくれ」
「はぁ……」
レイラとバドルはほとんど接点が無い。ヴィオレット王国にいても、バドルはほとんどレインや騎士の仲間としか関わっていなかった。
レイラはレイラで、大勢いる騎士の中でもフルールとしかほとんど関りが無かった。なので、互いに面識はほとんどないが、バドルの方は事情を知ってしまった為、他人事ではいられなかった。かつてのレイラの面影そのままで安心した。何がどうなっているかなどどうでも良かった。彼女が生きていることが何よりも喜ばしいことだった。
しかしバドルは口にするつもりはなかった。レイラの方はまだ解決していないのだ。どうしてレインはあんな行動出たのか、レイラはまだ知らない。ヴェーダとの約束もあるが、バドルとしても本人の口から聞いた方が良いだろうと思っていた。何も言えないのは心苦しいが、せめて旅路が良いものであることを願うのみだった。バドルはヴィオレットを去った時から重くのしかかっていた心の枷が、少し軽くなったように感じるのだった。
「さーて、話はこれくらいにしてちゃっちゃと封印解いて、ちゃっちゃと出てってくれ!」
「自分で吹き飛ばしておいて、随分な言い草よね」
「さっき謝ったじゃーん。だから、詫びに分かりやすいように目印立てたでしょ。あれが無かったら、あんた達ずっと彷徨っていたって」
「マリエルが飛ばさなければ済んだ話だろ。わざわざアポもとったってのにさぁ」
ルーンは呆れかえっていた。ここへ来る前にこの島へ手紙を送っていた。道を覚えさせた使い魔に正規ルートを使って届けた。ただし、相手が読んでいるかは分からない。使い魔は役目を終えたら基本的にマリエル達に始末される。頻繁にやりとりをして、結界を張った者に目をつけられてしまっては元も子もない。
「確かにっ。やってしまったのは仕方ない。だからこっから改めてリスタートってことで。レイラちゃん封印解いちゃって!」
「分かってますよ。もう何が何だか……」
マリエルのノリがあまりにも軽すぎてレイラは困惑してしまう。だが、元々封印を解く為にここへ来たのだから、気後れする必要はない。レイラは封印の祭壇まで近づいていく。祭壇にはお供え物の果物が置かれている。この島でとれるものなのだろう。だが、なぜ置いてあるのか――これは別に何かを祀っているわけではないはずだ。レイラの視線がお供え物へ注がれていることに気づいたマリエルがははは、と笑う。
「あーそのお供えねぇ。バドルが厄除けに置いてるだけだから気にしないで」
「厄除け効果あるんでしょうか」
「無いよ」
「あっさりですね……バドルさんは分かってるんですか?」
「さぁね。まぁ気持ちの問題じゃないかねぇ~」
マリエルは本当の意味を分かっていたが、レイラには言わなかった。バドルはここが災厄の封印で、レイラが封印されたことにも関係があると知り、毎日祈っていた。安らかに眠れますように――と。バドルが隠したがっているようなので、マリエルは黙っていた。それにもう、きっと祈りは必要ないだろうから――
「とりあえず、吹き飛んでしまったら申し訳ないので少しどかしますね」
「食べちゃえ!」
「いや……さすがにそれはちょっと」
レイラはやんわりと断った。お供え物の奥にあった宝珠は、相も変わらず不思議な色を放っていた。そして、自分の中から何かがこみ上げてくるのも感じていた。レイラの力は着実に強まっていた。
レイラは意を決して、宝珠へ触れた――レイラの意識はさざ波の音を聞きながら、遠くなっていく。