先に飛び込んだ二人は無事に島へ辿り着いていた。ただし、島は修羅場と化していた。 

「……おい、魔法使い何か言いたいことはある?」
「いてててててててて……誰もいかなさそうだから背中を押しただけって……痛い痛い!」

 飛び込んだ直後の記憶はほとんどない。気づいたらどこか分からない場所の水面から顔をだしていた。ラパンが真っ先に水の中から飛び出た。次にルーンが出てきたので、ラパンは速攻でルーンの首根っこを掴んで締め上げていた。

「悪かったって……だから、マジで離してください……」
「……ふぅ」

 満足したラパンはルーンを放り投げた。放物線を描くようにルーンは勢いよく地面に叩きつけられた。割とダメージをくらったかもしれないが、ラパンが受けた仕打ちに比べれば安いものだった。

「……レイラちゃん達も来る?」
「あそこで待っていてもどうしようもないし、いつか来るでしょ」
「……つーかさっきの道、意味分かんないんだけど」
「造った人に言ってよ。僕が生まれる前からあるし、僕に文句言われても困るって」

 ルーンは肩をすくめる。確かにルーンに言っても仕方のないことだった。ラパンは文句を言う為ではないが、この島にいる住人について調べることにした。

「……あんたの言った通り、人はいるみたいね。三人くらい」
「三人!?」

 ルーンは思わず聞き返していた。どうやら、ルーンが思っていた状況とは違うようだ。もう一度、ラパンは感覚を研ぎ澄ませるが間違いではなかった。命の鼓動が三つ聞こえてくる。

「間違いないと思うんだけど、違うの?」
「え、あー……僕が以前来たときは、二人だった気がするんだけど」
「……三人ですけど」
「いやいや、ホント知らないって」

 ルーンの様子を見る限り本当に知らなさそうだった。島へ入るには、ずぶ濡れ確定ルートしかないとルーンが言っている以上、他に入り込む余地はなさそうだが果たしてこの島に何が起きているのだろうか。

「……何なの? この島」

 思えばルーンと二人きりで会話するのは初めてである。レイラのことは信頼しているが、未だにルーンのことは怪しいと感じている。何を考えているのかがいまいち読み取りづらいのだ。出会った当初から、胡散臭さが拭えない。レイラによれば、ルーンが世界を壊したいと言っているのでそれに従っているという。

(こいつは本当に世界を壊したいと思っているのか)

 ラパンとしては世界を壊してほしいのだが、すんなり上手くいくとは思っていない。ヴェーダも世界を滅ぼしたいと言っているようだが、何か他に目的がある様に思えた。後から入ってきたラパンでさえそう思うのだ。皆、それぞれ別の思惑がある――ラパンもレイラには言っていない思いがあるので、人のことは言えなかった。

「……封印解いて、世界壊して、世界の先ってどうなるの」
「突然どうしたのさ」
「……気になっただけ」
「また新しい世界を始まるのか、そこに自分がいるかってことかな?」
「……そんな感じ」
「そこはレイラ次第さ。僕は壊してくれと言ったけど、彼女がどうするかだよねー」

 あくまで破壊するのはレイラなので、自分は関係ないと言いたげだった。これでは、まるで世界が別に壊れなくてもいいと言っているようなものだ。

「……そもそも本当に壊せるの?」
「君はその力を信じたからついてきた。自分で死ぬのが嫌だから人に任せたかったんでしょ?」
「……そうだよ。レイラちゃんなら、やってくれるんじゃないかと思って」

 根拠は無いがレイラならやってくれる。自分の願いを叶えてくれるのではないかと。災厄の力を聞いてから、その思いは強くなった。世界に未練もない。消えてしまいたい。
 けれども、自殺は嫌だ。我儘なのは分かっている。どうしようもない臆病者だということも理解しているつもりだ。

「レイラは叶えてくれるよ」
「……やたら自信満々ね」
「信じているんだよ。僕は、世界を……彼女をね」

 ラパンとしては、自身の願いも叶えて欲しいが、レイラの気持ちをないがしろにしたくない。彼女が世界を壊したくないというのなら、それに従うつもりだった。もしもそうなったら、救ってもらった以上みすみす死ぬつもりはない。
 ルーンはそんなラパンの気持ちを知ってか知らずか、どこまでも穏やかに呟く。

「ま、僕のことを疑うのはいいけど、レイラのことは信じてあげてよ」
「……言われなくとも」

 二人が話し込んでいると、背後から人の話し声が聞こえてきた。最初は何とも言えない呻き声だったが、近づくにつれてはっきりとしてくる。

「はっ。ここは死後の世界……?」
「レイラ様! 本が! 生きてるよぉ~わぁああん」

 ミレドは思いっきりレイラに抱きついていた。レイラはぽかんとしたまま状況が理解出来ていなかった。

「二人とも遅かったね。やっぱりアレに飛び込むのは勇気がいるよね。はははーッ……いった」
「……そう思うなら突き落とすなボケ!」

 ラパンはルーンの背中に蹴りを入れた。二人の顔を確認したレイラは心から安心した様子だった。

「ラパン、ルーン。無事だったのですね! よかったです……」
「突き落とされた時の顔……ヤバかったねぇ~」
「……絞めるぞ。レイラちゃんから離れろ」
「もう、シメテる…………ぉ」

 ラパンはミレドを引き剥がして放り投げた。容赦のないスイングだった。

「あれでも潜ったばかりなのに、威勢がいいわね」
「あなたは潜っていないでしょう……」

 何事もなかったかのようにヴェーダが出てきた。レイラは正直、この時ばかりはヴェーダの体が少し羨ましく思えた。不便なところもあるが、いざというときに避けられることを考えると案外、悪いものでもないのかもしれない。

「さて、皆の無事も確認出来たことだし、封印を解いてしまおうか」
「そういえば、目の前に封印があるんですね。驚きました」

 封印はレイラ達が這い出てきた泉から数歩進んだ場所にあった。というか、目と鼻の先に存在していた。封印は石造りの祭壇になっている。何やら謎のお供え物も置いてあった。

「誰かいるのは明らかですね」
「考えたってしょうがない。むしろ、会わないならそれに越したことはないさ。というわけで、よろしく」

 ルーンの言う通り、誰かに鉢合わせするよりかは封印をさっさと解いて、この場から立ち去ったほうが良さそうだった。
 レイラはそっと祭壇に近づく――しかし、それは突然割って入ってきた声によって強制的に止まった。

「侵入者はっけーん!! 迎撃開始ーーーーっ!!」
「え?」

 耳をつんざくような甲高い声が飛んできたと思ったら、島の雲行きが怪しくなっていく。気付けば島は暗くなっていき、大地に刺さるような大雨に見舞われた。雨に紛れて光の矢が降ってきて、それと同時に自然のものとは思えない風が巻き起こった。レイラの体は封印の祭壇から遠ざかっていく。

「きゃあああああああああああああああああっ!?」
「あーあ。これは……」
「何事!? ちょっとレイラぁ!! 大丈夫なの!?」
「雷だよぉ~うわああああああぁああ~ん」
「……マジ最悪~~~~~ッ」

 嵐に巻き込まれた五人は悲鳴を上げながら空へと舞いあがる。
 突如、機嫌の悪くなった島に為す術も無く、身を任せるしかなかった――

――ディユー島。始原の泉付近。

「はえ~よく飛んでいったなぁ……」

 封印近くにある泉は封印管理者の通り道だった。元より封印を管理するために作られた隠し通路だ。封印近くに抜け道を置くのは自然のことであった。もっとも、最初にこの通り道を作った人間がここを使っているところを少女は見たことがなかった。金髪に派手目の恰好をしたツインテールの少女は空を仰ぐ。もう一人、魔女帽子を被った少女は惜しげなく金髪の少女に声をかけた。両方とも魔法使いである。
 そして、金髪の少女は先ほどの嵐を巻き起こした張本人であった。

「おい」
「なーにー? 今忙しいぞっ!」
「お前が今打ち上げてたのは侵入者じゃない」
「え!?」

 黒い魔法使いはそう告げると金髪の少女に手紙を投げた。ぱしっと片手で受け取り少女は一通り手紙に目を通すと、冷や汗を流し始めた。

「あいつから連絡があっただろう」
「えええー? あーっ! そうだった忘れてた! ごめんなぁー」

 少女は空へ向かって、謝罪の言葉を投げたが届くはずがなかった。少女が飛ばした人間達はそれぞれどこかに散らばってしまっただろう。

「さっさと探しに行くぞ」
「はぁ。やっちった。ルーンちゃんに怒られそ……きゃは」

 二人の魔法使い達もその場を後にした。嵐のような少女達は消え去り、祭壇の前は静かな時間を取り戻したのだった。