「海ですって……?」
「ボク泳げないよぉ~」
「なーに泳いでいくわけじゃないさ」
ミレドがついてくることになり、改めてミレドへ旅の目的を含め、これまでのいきさつを説明した後、レイラ達は次の目的地を目指し進んでいた。聞けば次の封印は絶海の孤島にあるという。
「ネジュル海域にあるんだけど、海域がメジアの方で面倒な場所なんだ」
「島の名前がディユー島だったっけ。どんなトコなの?」
「……全然知らない」
ヴェーダもラパンも聞いたことが無いようで、首を傾げていた。レイラもあまり知らない場所であった。
「嵐の海域に佇む曰くつきの島だよぉ。何でも、島には化け物がいるって噂でさぁ、島には一切近づけないらしいよ~」
ミレドは各地をふらふらしていたせいか意外に物知りだった。ディユー島はメジアの果てにあるせいか、知名度は低めである。場所の特徴はこれといったものはなく、資源も特にないのでメジアにいる魔法使いも立ち入らない場所になっていた。どちらかというと、ディユー島があるネジュル海域のほうが有名だという。嵐が絶えず発生しており、海に住む凶悪な魔物が往来する場所になっているらしい。視界が常時最悪な為、島へ近づく者はほとんどいないという。そもそもミレドによると、島には近づけないようになっているとか――封印があるせいだろうか。レイラは首を傾げる。
「人がいないならやりたい放題出来るわね!」
「それがそうでもないんだ。ディユー島には魔法使いが住んでる。誰もいないって言われているけど、これでも住民はいるんだよね」
どうやら、無人島というわけではなさそうだった。絶海の孤島に住んでいる魔法使い――相当な変人だとレイラは思った。レイラとは対照的に、ヴェーダは興味津々だった。
「へぇ、面白そうじゃない」
「面白いで済めばいいんだけどね」
「何かあるんですか?」
「とにかく会えば分かるよ。まぁ、ミレドほど悪い人じゃないから」
「……それだと大体の人が良い人になるんだけど」
「え~どういう意味それ~」
それからひとしきり周辺を含め、ディユー島について学んだ後、一行は狭く、足場の悪い洞窟をひたすら進んでいた。どうしてこうなったかと言えば――
「ここまでくると探検家ですね」
「洞窟……聞いてないよぉ」
次の場所へ足を運ぶのはよかったが、何故かレイラ達は洞窟を探検していた。ちゃんとした道が出来ており、人の通り道であるのは確かだが、これが島へどう繋がるというのか、ルーン以外には理解出来なかった。洞窟内は魔物もいて、かなり危険な場所だった。追い払いつつも、周囲が崩れないように威力を調整するのは今のレイラには難しい。
「これがディユー島への正規ルートで、これ以外に通り道はない」
「移動魔法じゃダメなの?」
「移動魔法を使って行こうとすると、もれなく嵐の海へ真っ逆さまさ。体験してみたいなら、構わないけど命の保証はしないよ」
「するか! ていうか、そうなら最初からそう言いなさいよ!」
ルーンの話によれば、今現在ディユー島は船で近づくことはおろか、移動魔法で入ることも出来ないという。大規模な結界が張られているとしか思えなかった。
けれども、住んでいる人間は魔法使いだという。魔法使いが結界を張れないこともないだろうが、大規模な結界を張る力があるなら、敵として立ちはだかったときに脅威になるだろう。
「でも、外から行ける手段があるってことは、そこまで排他的ってわけでもないのかもねぇ~ボクなら完全封鎖してるよぉ」
「確かに、外界と繋ぐ場所を残していますし。島から出ることもあるということでしょうか」
「誰も入ってこないようにしてるのなら、基本引きこもりなんじゃないの?」
「基本的にはそれに近いと思うよー」
ルーンは深く説明する気が無さそうだった。ルーンが知っているということは、島に住んでいる魔法使いもルーンのことを知っている可能性が高い。面倒ごとにならなければいいのだが、レイラは少しだけ心配になってきた。
「超危険人物ではないのよね?」
「そこまで無いと……思うよ」
「微妙な言い方ですね」
「これまでは何もなかったけどさ。前は無くても今は、ってこともあるし」
「何かあったら貴方が全部何とかしなさいよ」
「あーうん……」
ルーンは島に近づくにつれ、どこか元気がなさそうに見えた。流石のレイラも何かあることは気づいてはいたが、ルーンが正直に話すとは思えなかった。ヴェーダにアイコンタクトを送ったが諦めたかのように横に首を振った為、深く探ることはせずに黙って歩みを進めた。
「もうすぐ抜けるよ。ほら」
「……あ」
ルーンの声を聞いてレイラが顔を上げると、一筋の光が洞窟の中に差し込んでいた。長い道の終わりを示すものだった。急いで洞窟を抜けるとそこには大きな滝があり、美しい自然が彩られていた。木漏れ日が程よく差すこの場所はグラスがかなり満ちているようだった。
「んー何だか、いるだけで健康になりそうだねぇ~」
「力が溢れてくる感じがする……」
「グラスの力を感じるわ」
封印場所に劣らず、かなり魔力が強い場所だった。緑に包まれた空間は、心も体も浄化されるようだった。
「綺麗ねぇ。綺麗だけれど、こんな場所に出てどうするのよ?」
「そこに滝があるだろ? そこの滝壺に飛び込むんだ」
「「「「はぁ?」」」」
皆、声は揃ったがルーンの言葉を理解するのに時間がかかった。
「簡単なことさ。滝壺に頭でも足からでも、どこでもいいから潜る。それだけ」
あまり言っていることは変わっていない。やはり、聞き間違いではないようだ。レイラ達は言葉に詰まっていた。やれと言われて、嬉々として飛び込む人間などいないだろう。誰も何も言わなかったが、痺れを切らしたラパンが前に出る。
「まずあんたが手本を見せ――」
「まぁまぁ、そういわず騙されたと思って飛び込んでみなよ。はいどーん」
「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」
喚くラパンを容赦なく突き落としたルーン。ラパンはタダでは落ちるものかと言わんばかりに、肉体強化の魔法を使い、がしっとルーンの腕をつかんだ。
「え。あれ?」
「……地獄に落ちろ!!」
二人は仲良く沈んでいった。レイラ達は恐る恐る滝壺に手を突っ込んでみたが、反応はない。しばらく待ってみたが浮かんでくることもなかった。
「どうしましょう」
「……行くしかないんだろうけどさぁ~」
「あーこわ。霊体でよかった」
そう言いながら、ヴェーダはするっとレイラの中に入っていった。レイラはこの時ばかりは、本気でヴェーダに対して怒りを覚えた。
「あっ、ヴェーダ! ズルいですよ!」
「どうしよう。潜らないといけないのかなぁ」
「私、泳げないですよ」
「ボクも泳げないよぉ。魔術も水の中じゃ使えないし……」
このまま手をこまねいても埒が明かない。ルーンが大丈夫だと言っているならそれを信じるしかない。罠だとしても、そもそもこんな所で殺す理由がない。レイラは色々と考えた結果、思い切って飛び込むことにした。
「一人がダメでも二人なら大丈夫!」
「一人がダメなら、もうダメなんじゃ~」
「そーれー!!」
水の中へ勢いよく入っていった。不思議なベールに包まれていく感覚があった。グラスの力に溢れた水はレイラ達を誘う。
「えええええええええ……そんなぁあああああぁぁ。本がぁああ~あぁぁあぁ~」
自身よりも本の心配をするミレドの悲鳴は虚しく響き、水の中へ溶けていった。