レイラはまたよく分からない夢のようなものを見ていた。全貌がはっきりしていくにつれて、もやもやが増していく。真実に近づいているような気がして、遠ざかっていく感覚だ。近づいては遠のく、不思議な感じがする。
――××××はすごいですね。私なんかまだまだ遠く及ばない。
――貴方も立派じゃない。私なんかより目的もあって、やることも決めている。私なんか宙ぶらりんよ。
――普段人に褒められても何も感じませんが、××××に褒められると嬉しいです。
――ふふん。当たり前よ、この私だもの……って、そこまで大した事やってないけどね。
――いいえ。貴女は数ある星の中でもひと際輝いていますから。謙遜しないでください。貴女の力は本物です。
少女達の会話。声は以前よりもはっきり聞こえてくる。一人の声は分からないが、もう一人の声は、聞き覚えのあるものだった
――貴女には生まれ持った業がある。それを生かしているだけ。分かっています。えぇ、私はとても理性的だから、許してあげるわ。けれどねぇ……私の思いを踏みにじったことは許さない。絶対に……!!
――貴女には一生分からないでしょう。でも大丈夫、貴女にも分かる日が来る。私が教えてあげます。
――暗い、深い……光の差さない奈落の底でね……
場面が切り替わり、桃色の髪をした少女は微笑んでいた。微笑というよりは、悪魔のような笑みに見えた。心の声だろうか。口の動きと聞こえてくる内容がどうにも噛み合わない。桃色の少女は絶望していたのだろう。どうしようもない、実力の差――才能という壁に――
(分からなくもないです。彼女の気持ち……)
――お前には私のすべてを詰め込みました。私は完全でありませんが、十分でしょう。完全だったらそこで終わり。成長できない、可能性――輝きは生まれない。たくさん世界を回りなさい。世界を見てきなさい。そして、私の役に立ちなさい。お前の存在理由はそれだけです。
――こんなものではありませんか? 違うって?
――お前の為でもあるのですよ。
――輝きは自分の中にあって、自分で光らせる他ないのです。
――誰かに頼っても、虚しいだけ。
――使えるものは使うだけ。
――全部駒なのです。
――お前も、××××も……
――私の世界の礎
――嫌なものは全て消えテ
――優しい世界ガ
――待っているノ……
例によってノイズが混じっていく。映像は乱れて、レイラはぷかぷかと漂っていた。何だか、胸が苦しくなる。自分のことのように、痛くて仕方がない。
(一人で、叫んでいるみたい。何だか苦しい)
(彼女の真実も間違いではない。しかし、真実は一つではない)
いつの間にかグラスが横で揺蕩っていた。相変わらず何を考えているのか分からない表情だった。ここでしか会えないのなら、今聞くしかない。
(グラス、輝きというのは意思の強さのことなのでしょう?)
(そうだ。だが、その一言だけで説明出来るものではない)
(あの女性が言っていた、可能性という側面もあると?)
(彼女の輝きは素晴らしい。しかし足りない。あれでは叶えられないだろうに、奴は性格が悪い。くっくっく……)
グラスがレイラの問いかけに答えてくれることはなかった。
(何の話をしているのですか)
これまでの雰囲気と打って変わって、グラスはどこか楽しんでいるように見えた。からかっている様子でもないが、レイラは少し不快な気分になった。
(誰かといれば輝く者もいれば、一人で輝く者もいる……という話だ)
桃色の髪の女性は叶えられない。
では、自分は? グラスに問いかけるのは恐ろしい。それでも、引くことは出来なかった。自分は知らなければならない。そして、決めなくてはならない。誰が何と言おうとも、進むしかない。それしかないからという消極的に進むのではない。フルールと話して、自分の気持ちが見えてきた。
(輝きが見え始めている)
(え……)
(人の子よ、もう少し自分を信じてみるといい)
淡い光の中に飲み込まれていく。意識は遠のき、夢から醒めていくようだった。その瞬間にも、何かが流れ込んでくる。
――本当は守りたかった。君はあの子のようになってほしくなかった。二度と繰り返したくなかった。
――遠ざければ、注目もされなくなるかもしれない。もしかしたら他に候補が現れて見逃してくれるかもしれない――なんて甘かった。
――遠ざけても、結局無駄だった。君は生贄になった。
――馬鹿だ。僕は大馬鹿だ。なんで、こんなことになった。少し考えれば分かるだろうに。
――あぁ、どうやっても無理なんだ。もうやめよう。考えるのはよそう。自分も辛くなるだけだ。
――アノヒトニハサカラエナイ。ボクハマガイモノデ――ダカラ。
(これ……)
景色は移り変わっていく。耳にすっと入ってくる、聞き覚えのある声。――ちらりと見えた姿は思っていたのと違っていたが、レイラは確信した。奥底に封じられていた記憶が、解けていくようだった。今はまだ混乱していてまとまらない。でも、間違いなかった。あの姿は、間違いなくかつての――
(どうして……)
レイラの意識は無情にも遠ざかっていく。もう少しで何かが掴めそうなのに――気付いたらレイラは祠の前で座り込んでいた。魂が抜けたかのように、レイラはじっと動かなかった。
(あれは、きっと)
「ねぇ大丈夫?」
(あれは――)
「ねぇってば~」
「……はっ!? あ! え?」
「ずっとぶつぶつ言ってたけど大丈夫~?」
ようやくレイラは現実に戻ってきたようだった。ミレドは心配するそぶりを見せてはいるものの、何をしてくるか分からない。警戒するにも、意識が混濁していた。レイラは頭を押さえながら立ち上がる。
「封印って解けたの~」
「宝珠が、割れているでしょう? 成功していると思います」
「へー」
そう言いながらミレドは、影を伸ばしレイラを木に抑えつけた。あまりの衝撃にレイラは意識が一瞬吹っ飛んだが、何とか持ちこたえた。
「……約束と違いませんか?」
今のレイラには抵抗する気力も起きなかった。頭の中が渦巻いていて、思考がおぼつかない。先ほどの情報を整理したいのに、状況は許してくれそうになかった。
「気が変わった。喰えば強くなりそうじゃない? 興味津々。色々調べたいって言ったでしょ~」
「そうでしたね……」
フルールの方を見るが、まだかろうじて生きているようだった。
しかし時間の問題ではある。今の窮地から抜け出して、フルールを助けることは可能か。こうなってしまったら、フルールを見捨てることなど出来なかった。彼女にはたくさんの恩がある。出来る事なら助けたい。記憶を見て揺れ動く心を抑え、レイラは強く祈る。
(弱気になってはいけない。信じるのです――今この瞬間! グラス! 力を、貸しなさい!!)
すべてを断ち切る剣。未来を切り拓く刃を想像した。魔法は願いを叶える術だと――レイラは強く願う。
「あなたみたいな人に殺されるのは死んでもイヤーーーーーーーーっ!!」
レイラの力が拘束する力を上回ったのか、影は千切れていった。レイラの手にはいつの間にか剣が握られていた。無我夢中で剣を振り次々と湧いてくる影を切り裂いた。
そしてフルールを縛る影も刺していく。フルールに纏わりついていた影はみるみるうちに溶けていった。ほとんど力は残っていなかったようで、フルールは崩れ落ちるように倒れた。レイラはフルールを抱え、ミレドと対峙した。
「えーそんなぁ。ボクの術が。なんでぇ~退魔効果があるの? なんなの~? 災厄の力って何なのぉ~?」
ミレドは驚きを隠せなかったようで、不満を漏らしていた。
「災厄はグラス――魔力の源ですよ。あなたも持っているものです。ただ、私の場合は桁違いに量が多いらしいです」
「……ますます興味深いねぇ~でも、見たところ戦闘は不慣れみたいだね。おねーさんも気絶しているし、どうするつもり?」
「どうするも何も……前に進むだけです! あなたを倒して森を抜けます!」
「威勢だけはいいねぇ~」
ミレドが攻撃を仕掛けようとした瞬間――
「ミレドぉぉぉおおおおおおおッ!! さっさとくたばりやがれぇえええええッ!!!!!!!」
「あ~れ~」
何かがすごい勢いで飛んできて、ミレドを吹っ飛ばした。ミレドは吹っ飛ばされた方向にあった木に強く打ちつけられた。木の葉がばさばさと落ちてくるのを見ると、かなりの衝撃だと思われる。あまりの勢いにミレドはそのまま気絶してしまったようだった。
「な、何事!?」
レイラは何が起こったのかも分からず、ぽかんと立ち尽くしていた。