「ちょっと待って待って、どうしたら――」
レイラは立ちすくんだままだった。フルールはそんなレイラの様子を見て、自分の置かれた状況に構わず叫んでいた。
「レイラ! 逃げて!」
「ムダだよ。どっちも、ボクのテリトリー内に踏み込んだ時点で終わってるんだからさぁ……」
「え……」
足元を見ると、何か黒い手のようなものが絡みついていた。足は全く動かない。フルールもレイラも拘束されてしまったようだ。フルールは不利な状況でも、臆することなく相手を睨みつけた。
「……お前が森の中で騒動を起こしていた人間か。まだ。子供のようだけど……」
「そうだよぉ。おねーさん達は何しに来たの? 観光じゃなさそうだよねぇ~」
「教えるわけないでしょ……うッ……ぐ」
フルールへの締め付けが一層増した。思わず呻き声が出てしまう。首元まで黒い触手のようなものが絡みついて、空気の通り道を塞ごうとしていた。
「立場分かってる~? そんな力をもって、何しにここへきたのさぁ~」
少年はレイラのほうに詰め寄ってきた。見定めるようにじろじろ眺めている。
「わ、私? 私はいつの間にかこの森に引き寄せられたんですっ。別に目的も何も――」
「そういう術だしねぇ~」
「えっ?」
驚くレイラに対して、少年は構わずに説明を続けた。
「魔力の強い人間をおびき寄せる術。勘が鋭い魔法使いとかなら普通は気づくし、寄ってこないんだよね。用があるのは魔力が強くて、弱い人間。簡単に引っかかるし、餌にしやすいんだよねぇ~」
「餌ですって?」
「そうだよ。この子たちは召喚してるんだよねぇ。便利だけど燃費悪いから困るんだ。食費がねぇ……大変なんだよねぇ~実験するにも一苦労だよぉ~」
少年は自らの持っている本から出ている黒い靄に視線をちらつかせながら、ため息を吐いた。少年が持っている本は魔術書のようだった。その中にいる悪魔を召喚しているようで、悪魔を動かす代償は人間の魂であるという。
「人喰いの正体……って、そういうこと、なのね」
フルールは先程の説明で全て理解したようだった。嫌悪と軽蔑の表情で唇を噛みしめた。あまりにも、理不尽で身勝手すぎる理由だった。
「食べるのは魔力だけいいんだけどぉ~処理が面倒だからそのまま放り込んでいるんだ。たまに食い散らかすけど、そのうち土に還るだろうし放置してるよ。綺麗に食べる奴もいるから面白いよね。見てて飽きないよぉ~」
「畜生……め」
「で、話を戻すけど。キミ、一体何なの? 魔力が尋常じゃないくらいあるけどぉ……?」
「そもそも、私はこの森にある、封印を解きに来たのですが、説明がめんど……します! しますぅ~」
一瞬締め付けがきつくなったが、すぐに収まった。最初から全部話すべきなのかレイラは迷った。こんな人間に話したらどういう反応を示すのか。現状打破を願い、説明することにした。自分でもよく分かっていない部分が多いため、曖昧になってしまう箇所もあったが、一通り説明を終えた。
ただし、話がこじれると厄介なのでフルールとは敵対していることは伏せた。フルールもレイラの説明を聞いていたが、特に何も言わなかった。
「……というわけで、私はさっさと封印を解いて、進まないといけません。あなたみたいな人間に構っている暇はないんです」
「場所は知ってるの~?」
「分かりません。だから探しているんですけど……」
「へぇ~なるほど。それならボク、心当たりあるよぉ?」
「はぁ」
レイラは信じていないようだった。呆れ顔のレイラに対して、少年はニコニコしていた。
「面白そうだから封印を解くトコ、見てみたいなぁ」
「見世物ではありません」
「じゃあ、このまま餌になっちゃう~? でも、災厄の力っていうのも魅力的だなぁ。調べたいなぁ」
「……どっちもお断りです!」
「餌が良いってわけ~?」
「レイラ! 言うことに従いましょう。埒が明かない」
フルールは冷静に状況を判断しているようだった。話が通じない相手というのはどうもやりづらい。
「そっちのおねーさんは分かってるじゃないかぁ。キミはどうするのさぁ~」
「気は進みませんが、仕方ありません。従いましょう」
レイラはしぶしぶ、従うことにした。レイラが反抗して、フルールが命を落としてしまったらどうしようもない。
「やったぁ~それじゃあついてきてよ」
レイラの拘束は解かれたが、フルールは縛り付けられたままだった。
「あの、フルールも一緒に」
「だっておねーさん怖いし……」
「それを言ったら、私はあなたの方が怖いですよ。何されるか分かりませんし……」
「それもそうだねぇ~」
少年は何に納得したのか分からないが、フルールの拘束も解いた。フルールはレイラよりもキツく縛られていたみたいで、解かれた瞬間力が抜けたようで、尻もちをついた。
「っ……とんだ災難だわ……自業自得だけれど」
「大丈夫ですか?」
「えぇ、ありがとう」
レイラはフルールに手を差し伸べた。穏やかな光景に少年は思わず笑っていた。
「ほのぼのしてるねぇ~世界を壊すとか言ってるから殺伐としているかと思ったよ~」
「こんな時までいがみ合っていたら、死んじゃいますって」
「嵌めたら後ろから刺すわよ!」
「やらないよ~ていうかぁ……おねーさん達も案内終わるまでは、間違っても攻撃しないでねぇ~」
「分かってるわよ。案内が終わるまで、ね」
黒いマントを羽織った案内人に、不安を抱えながらも二人は付いていくしかなかった。