12

 三人が出ていった後、ラパンは一人ステンドグラスを眺めていた。この世界に、神はいない――ラパンはあの日からそう思っていた。

(世界はレイラさんが壊すっていう話だ。正確には魔法使いがレイラさんに頼んだっていう話だけど)

 どんな意図で壊すのかは知らない。絶対に壊せるか分からないといった、曖昧な返事。
 しかし、本当にそんなことが可能ならラパンはそれに縋りたい気持ちがあった。一人で死ぬ覚悟もない自分がレイラに出来るのかと問う筋合いなどない。それでも、レイラならやってくれるかもしれない。

(叶えてくれるのかもしれない。世界を壊して、私も壊してくれるかもしれない……)

 世界なんてどうなったっていい。自分が消えるのなら、何もかも消し飛ばしてくれるのならそれでよかった。罪に怯えながら、死んだように生きていたくない。自殺も出来ない。どうしようもなく臆病で、屑で、人でなし。そんな自分に帰る場所などあるのか。
 もし帰るとしたら、それは――

(世界を壊す――こんな世界無くたって困らない。私は、私――跡形もなく、消して)

 その為にはレイラに世界を壊してもらわないといけない。その為なら何だってする。

(今度こそ逃げない。私の思い……ヤツが来たとしても逃げない)

 ラパンはついに決心した。悩み疲れ、途中で迷走しつつも道を見つけたのであった。
 それがどんな道であったとしても、後悔しない。そう胸を張って言える選択肢――

「私は神に祈らない。信じるのは――」

 扉を開けると、一筋の光が差し込む――天国の光か、地獄への道か。
 
「決まったみたいですね」

 レイラはラパンの顔を見るなり、安堵しているようだ。別に、ラパンが付いてこなくても問題ないだろうに、不思議な人だと思った。

「……私はあんた達についていく。レイラさんには悪いけど、利用させてもらう」
「構いませんよ。ここにいる人達みんなそんな感じですので」
「……レイラさんはそれでいいの?」
「一度死んだようなものですし、今はルーンの助けになればそれでいいかなって思っているので。でも、私の場合は全て決まっていたようでなんで、たまに複雑な気持ちにはなるんですけどね」
「……?」

 ラパンに疑問が浮かんでいた。ラパンからすれば、レイラが一番力を持っているように見えたが、そうではないようだった。

「話せば長くなるのですが――」
「知っても知らなくてもいい情報かも知れないけれど、付いてくるって決めた以上はある程度情報は共有しておいた方がいいでしょう」

 レイラに変わってヴェーダが解説し始めた。レイラはルーンと契約状態にあり、自由な行動が出来ない――という事実。説明を一通り聞いたラパンは、ルーンに対して何とも言えない視線を向けた。
 
「…………最悪じゃない?」
「これでも、労働環境は良い方だと思うんだけどね。別に姫様の行動は縛ってないし。姫様が文句言ってないからいいだろ」
「文句言わないからって最悪よね。契約なんてするもんじゃないわ」
「君も姫様と契約してるだろ。姫様の奴隷じゃん」
「……そうなの?」
「私のは生きるために仕方なくやってるだけだからー!」

 どうやら、契約していて従僕状態になっているのはヴェーダも同じであるようだ。彼女に言わせれば、自身はレイラの魔力に頼り、レイラはその代わりに守ってもらうといった奴隷というより共生関係に近いという。レイラはそこまで気にしていないようなので、ラパンが気にすることでもないかもしれない。

「レイラはお人好し……ううん、優しいから何でも許してくれるわ」
「何でも許した覚えはないんですが」
「……こんなんで大丈夫なの?」
「今のところは破綻していないわ。今のところ、はねぇ」
「そうだね。だから、さっさと封印を解いて次へ進もうじゃないか」
「そういえば、すっかり忘れていました……」

 レイラはすっかり封印のことなど頭から飛んでいたようだった。こんなことで大丈夫なのかと、さっそくラパンは不安に駆られるのだった。

「それにしても、私達がここに来た本当に意味無いわね。神へ宣戦布告は果たせたけれど、祈りは馬鹿馬鹿しくて出来なかったわ」
「こういうのは大抵、自分の気の持ちようだからね」
「そうね。迷いっていうのは不安から来るものだし。最終的に自分が正しいのか――背中を後押ししてほしい。ここはそういった場所のような気がするわ」

 一歩が踏み出せない人のための祈り――気休めでしかなくても、迷い続ける人間には効果的なのかもしれない。ある意味自己暗示に近いものである。

「……あの、ありがと…………レイラ、ちゃん」
「私はまだ何もしていませんよ。大事なのはこれからです」
「そうだね。私もくよくよしてられない……」

 新しい希望を胸に抱き、ラパンは強く祈った。

(私を導いて――どうか、光を。行けるところまで――)