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 悩み苦しむラパンに対して、レイラはどうすればいいのかずっと考えていた。レイラはラパンに救いを与えることは出来ない。ラパンが抱えている痛みは、きっと自分で解決しないといけないものだろう。けれども、ラパンには難しいことかもしれない。自ら命を絶つのも、苦しいと思っているのなら、それは生きていたいということだ。かといって、前向きに生きることも出来ない。せめて、何か目標になることがあれば気が楽になるかもしれない。レイラは話を聞いてから、どうするべきか悩んだ。結果的に出た答えはこれしかなかった。

「私達は災厄を解き放ち世界を壊します。世界が滅んで死ぬのなら、どうしようもないこと……運命には誰も逆らえません」
「……?」
「私達と一緒に行きませんか? 世界を壊しましょう。世界を壊せば、ラパンを縛る鎖は無くなります!」

 世界に災厄の力が放たれて、飲み込まれ死んだ場合――それは仕方のないこと。人間は自然の力に為すすべもなく、ひれ伏すのみ。

「……世界を、壊す」

 それが出来ればどれほどいいだろうか。それで死ぬことが出来ればどれほど楽だろうか。ラパンは自分で死ぬ勇気もないが、誰かの手によって殺されたいわけでもない。
 しかし、どうしようもない運命的なものだったら――

「……それって人為的に引き起こすわけでしょ。レイラさんはそれでいいの? 本当にそんなことが出来るの?」
「出来るかは分かりません。私は今でも正直疑っています。それでも、望む人がいるのならやるだけですから」

 理不尽な目にあって、絶望の淵にいたレイラは、傍から見れば流されているように見えるかもしれない。
 それでも、願いを叶えたいと思ったのは紛れもない自分の意志で、誰にも否定されたくなかった。自分達がやろうとしていることが、世界への反逆だとしても歩みを止めるつもりはない。

「……付いていったとして、達成出来なかったら働き損になる」
「だから選ぶんだよ。ここで何も決められずくたばるか、一蓮托生で流れに乗ってみるか――決めるのは君自身だ」

 レイラの場合は、ほぼ強制に近かったがわざわざ言うことではなかった。ルーンの言う通り、決めるのはラパン自身だ。自分の意志で来なければ意味がない。

「好きにしてちょうだい」
「多くても困らないけど、多すぎるのもな」

 ルーンやヴェーダにとっては、必要ない人員だが反対はしなかった。レイラは相談せず誘ってしまったが、心の中で二人へ感謝したのだった。

「……ちょっと考えたいから、一人にしてもらってもいい?」

 ラパンは申し訳なさそうに、レイラ達に告げた。レイラは慌ててルーンとヴェーダを押していった。

「そ、そうですよね。いきなり言われても困りますよね。ほらほら、出ますよ!」
「決められるのかしら」
「姫様からの提案だし、よく考えるといいよ。僕はどっちでもいいしー」

 二人はどっちでも良さそうな態度である。レイラはラパンと一緒に行けたら楽しそうだなと、思っていた。三人ともラパンが加入することへの抵抗はない。肝心のラパンはどうするのか――
 レイラ達は外に出て、思い切り山の空気を吸い込んだ。

「まさか、あんなことを言い出すとは思わなかったよ」
「だって、放っておけませんよ。恐らく私より年下なのに、生きていても何もないって、そんなの悲しすぎます」
「お人よしねぇ。まぁ、私は別にいいのだけれど。足さえ引っ張らなければ」
「それに関しては大丈夫じゃない。姫様より魔法使えるし」
「う……事実なだけに酷いです。私はもうちょっと楽しくなればいいなって思ったんですけど!?」
「……楽しくねぇ。楽しくなると思う?」

 ルーンはあからさまにからかっている。反対はしていないが、賛成しているというわけでもなさそうだった。そもそも、ルーンの願いを叶える旅だから、思うところもあるだろう。

「勝手に言った私も悪いんですけど……二人は反対だったんですか?」
「私は構わないわよ。中途半端だったら途中で死ぬだけだろうし。それなら、所詮そこまでってとこ」
「正直言うと、微妙なとこだよね。彼女の力は本物だと思うけど、心のほうが、不安定っぽいし裏切られたらって思うとねぇ」

 ヴェーダの言い方は冷たいが反対しているわけではなさそうだった。ルーンは実力は心配していないが、精神面に注目しているようだ。確かに途中でパニックを起こされたら、どうしようもない。自分の意志で決めたとしても、全て解決するわけではない。そこはラパン自身が旅を通して成長することを祈るしかない。

「心に関しては、安定している人が少ないと思いますよ。みんな、それぞれ複雑な思いを抱えている……それは私も。そしてあなた達も同じでしょう?」

 レイラがそう言うと、ルーンとヴェーダは無言になってしまった。けれども、事実だ。二人はレイラに隠し事をしている。レイラは二人が言うまで待っているつもりだ。そういったことも含めて、レイラはみんな似たようなものだと思っていた。
 歪な関係だが、信頼はしている。そうでなかったら、ここまでついて来ていない。

「……僕は姫様がやりたいようにやってくれたらいいよ。最終的に叶えてくれるなら、過程はどうだっていいさ」
「私はやりたいようにやるだけ。邪魔する者は蹴散らす」

 二人の目は一瞬だけ同じ場所を見ているように思えた。
 レイラはその様子を見て、なんだかんだでみんなの意識がまとまってきたように思うのだった。
 
 そして、背後から風と共に礼拝堂の扉の開く音が聞こえてきた――