Flos unus non facit hortum.

――ヴィオレット王国。ヴィオレット城の庭園にて。

 そこでは二人の男女が互いに睨み合っていた。男の方は微動だにせず、氷のような表情で女を見据えていた。女の方――フルールは肩を震わせながらも、男から決して視線を逸らさなかった。

「何故レイラを生贄にしたの!? 答えて!!」
「お前が知る必要はない」
「何でレイラなのよ……あの娘は、貴方をあんなにも慕っていたのに……」

 最初に話を聞いた時は半信半疑だった。そんなことをするはずがないと思っていた。
 しかし、実際にレイラと再会し、レイラの口から聞いた時、真実だったと愕然とした。あの時は、冷静を装っていたがレイラのことを考えて、潔く身を引いた。国に裏切られたようなものだから、こんな場所には帰りたくないだろう、とフルールは考えていた。ルーンやヴェーダ達のことは信用出来ないが、こちらにいるよりは安全だろう。
 レイラが無事なら、フルールが話を聞かなくてはいけない相手はレインだった。一体、レイラが消えた日に何があったのか――レインは頑なに応えようとはしなかった。

「お前には関係ない。指示も出していないのに、単独でレイラにあったことは不問にする。だから、これ以上何も聞くな」
「そんなに部下が信用出来ない? 友としても――私は力不足だというの!?」

 フルールは男の腕を、強く掴んだがあっけなく振りほどかれてしまった。男はフルールには目もくれず、立ち去っていった。一人取り残されたフルールは、その場にへたり込んで、顔を手で覆った。

「レイン……どうして。レイラ、ごめんなさい。貴方を助けられなくて――うっ……うぁ、わああああああああん」

 無力な自分と踏み込めない自分に対して、行き場のない怒りが湧いてくる。何も出来ないもどかしさも含めて、フルールは自分が情けなくて悲しかった。瞳の奥から溢れるものを、こらえようとしても止まらない。こんなことをしていても、何も解決はしない。
 しかし、フルールにはどうすればいいか分からない。このまま忘れたければ、これまで通りヴィオレットの騎士として働けばいいだけの話だ。本当にそれでよいのか――逃げてしまっていいのか。自分に問いかけたが、フルールの答えは決まっていた。涙を拭いて、フルールは立ち上がる。

「……泣いているのは性に合わない。こうなったら、やれるところまでやってやるわよ……!」