想定外の出来事が起こり、当初の予定より大幅に時間が過ぎてしまったが、封印の解除は出来そうだった。フルールに邪魔されていたら、どうなっていたか――彼女は無事に帰れたのだろうか。ヴィオレットと決別したとはいえ、気になってしまうのはおかしなことだろうか。それでいて、他人のこと考えるあまり、自身が苦しくなってしまう。本末転倒だった。情けないとレイラは思ってしまう。
「世界は広い。縁があれば会うこともあるだろうし、そんなに気にしなくてもいいと思うよ」
「堂々とすればいいの。後悔はしてもいいけれど、選択した自分を否定しなければいいの」
ヴェーダとルーンは悲しげなレイラの表情に気付いたのか、声をかけてきた。
レイラは二人の言葉を聞き、胸が少しだけ軽くなるのを感じた。全て、背負う必要はない。良いことも、悪いことも全て自身の力に変えられるくらい、強くなりたいと願った。
すると、胸の奥から何かが湧き上がるような感覚を覚えた。レイラの感覚が研ぎ澄まされる。
「封印――グラスの反応でしょうか。何か強い力を感じます」
「大樹が近いからかな。ほら、すぐそこ」
ルーンが指差した方向には、どっしりと構えた大樹がそびえ立っていた。遠くから見ても、とてつもない大きさだったのに、近くまで来るとさらに圧倒される。魔法で攻撃してもびくともしなさそうである。
「すごいですねぇ。上が見えませんよ」
「でも、木だしどうせ燃えるでしょ?」
「仮に燃やしてどうするんだ。封印が解けなくなるよ……」
「あ、空洞のようなものがあります。ん、何か光ってる?」
大樹の一部に切り取られて空洞になっている部分があった。そこには台座のようなものがあって、透明な色をした宝珠が置かれていた。透き通るような美しい曲線を描いた水晶に見える。
「すごい綺麗。この世のものではないみたいです」
「特殊な物質で作られたものみたいね」
「魔法石のなかでも高純度なもので作られているんだよ。とにかく、それに触れたら封印は解けるはず」
「は、はい……」
レイラが恐る恐る宝珠に触れると、突き刺すような光が宝珠から放たれる。何が起こったのか分からず、たまらず目を瞑ってしまう。光の中にあっという間に飲み込まれるような感覚だった。光と共にレイラの中に流れ込んできたのは、何かの映像だった。断片的に切り取られたシーンはノイズが混じっており、どういった光景なのかさっぱり分からなかった。それでも、声は少しだけ聞き取れる。
――は――何を――――あぁあああ゛ぁあああああ゛あぁあああああああああ!!
――それが世界の――ですよ――貴女は――永劫――――――なさい!
――君はこの世で何を願う? ××××
――世界を――――
誰かが会話している。映像は不鮮明で、音声も雑音が混じって濁っている。嵐のようにシーンは切り替わっていく。誰なのかも特定が出来ないくらい、何もかもが歪だった。その中ではっきりしているのは、誰かが何かを願い、誰かが何者かへ向けて憤怒を纏い叫んだということ。悲痛な声が耳の奥で鳴りやまない。まるで、あの地獄を再び見ているかのようだった。
(何、これ。そこにいるのは、誰――?)