普通に歩けば凶暴な植物にからめ捕られてしまう。人の背丈かそれ以上もある花も咲いているので、地上のルートはあまり使われないようだ。大半の魔法使いは空を飛ぶルートでいくという。当然の結論であるが、これも安全というわけではなかった。人間の魔力を感知して襲い掛かってくる植物もいるようだった。空を飛んでいても気を付けないと、植物に足を掴まれてあっという間に捕食されてしまうだろう。レイラは聞くだけで、身の毛がよだつのを感じた。
「気配を消す魔法とか無いんでしょうか」
「あるにはあるけど……かけたところでここら辺に咲いている花にはあまり効果がないかもね」
ルーン曰く、夢の花畑に咲いている花は人の気配に敏感らしい。魔法で気配を隠したところで焼け石に水なようだ。
「じゃあどうすればいいんですか~」
「運だよ。運が良ければ無傷で行けるし、悪ければ死ぬ。それだけだ」
「自然、恐ろしいです。あっそうだ。最低限自分の身を守れるくらいの魔法が使えれば安心出来るので、教えて貰ってもよろしいでしょうか?」
「……合理的ではあるけど」
レイラとしては悪くない提案だと思ったのだが、ルーンは少し迷っているようだった。
「レイラの力を信じてみましょうよ。それに、何のための制御装置よ」
「はは……それもそうだね」
「どういうことなんです?」
ヴェーダはルーンの考えが分かっているようで、助け舟を出してくれているように聞こえる。
「災厄の力が暴走しないか心配してるのよ。私は大丈夫だと思うけれど」
「あぁ、そういうことですか。また適当に断られたらトラウマになりそうなんで……」
魔法の才能が無いと告げられ、魔法を教えてもらえなかったことは、未だ心に引っかかっていた。軽く思い出すだけでも、頭が痛くなる出来事だ。
「ごめんごめん。まぁ大丈夫だとは思うけど、万が一何かあったら大変だからさ」
ルーンが気遣ってくれていることが分かったのでレイラは一安心した。
「それで、何の魔法にするの? いざとなったら全部燃やせるように火系にする?」
「洒落にならないってば。身を守るためなら防御系の魔法でしょ」
「が、頑張ります!」
そんなこんなで、レイラは新しい魔法を教えてもらうことにした。防御魔法は簡単なものだと自分の周りにシールドを張るのが定番らしい。ちなみに攻撃的な防御であれば、シールドをさらに剣のようにして相手に攻撃するというものもあるようだ。カッコいい――とレイラは思ったが、まずは普通の防御魔法が使えなければ話にならない。
「魔法が使えるくらいの魔力があって、尚且つやる気があって、センスがあれば大体出来るわ。中でも一番大事なのは心ね。すなわちハート。ちょっとした気の持ちようで変わってくるのよ」
「……割と要求されるもの多いですね」
論理的に組み立てる魔術と魔法の決定的な違いだ。魔法は自身が持っている魔力に左右されるほか、使用者の気持ち次第で力が変動する傾向にある。簡単に言えば怒りでも喜びでも、その想いが強ければ強い程、魔法が強くなるということだ。
「奇跡を起こしたりね。可能性を広げられるのが魔法だよ」
「いいですね。奇跡起こしてみたいです!」
レイラの意気込みは十分であった。数分レクチャーを受け、実践に移行した。そこから十五分程経過した結果――
「……これで、どうですか!?」
「やれば出来るじゃない。私は信じてたわよ」
「いいと思うよ。そこまで出来たら大丈夫だろう」
「やりました! 教えてくれてありがとうございます。これで怖いものなしですね」
「言っておくけど、ここは歴戦の魔法使いでも命を落としているから」
運悪く荒れ狂う植物に飲まれ、命を落としている魔法使いも多いという。自然に人の考えは通じない。予期せぬ事態に陥る可能性も十分あり得るのだ。
「……改めて言われると背筋が凍りますね」
「散々言ってるけどね」
「というか、レイラが死んじゃったら計画が破綻するのよ。本当に気を付けなさい」
「そこはヴェーダが体を張って守るところでしょ?」
「そういうの柄じゃないのよね」
ヴェーダは肩をすくめた。確かに、ヴェーダの性格では誰かを守るという発想が無さそうだった。それでも、魔法についてアドバイスをくれたりするので、決して面倒見が悪いわけでもない気がした。
「でも、レイラが死んだら君も消えるよ」
「じゃあレイラだけは守るわ」
「せめて、逃げる時間を稼げるぐらいの盾になってほしいよねー」
相変わらず、ヴェーダとルーンは言い合っている。これでも、ヴェーダはルーンのことは嫌いではないらしいが、そうは見えなかった。しかし、嫌いなら会話すらしない可能性ある。そう言った意味では、ヴェーダは本当に嫌いではないのかもしれない。
だが、ルーンの方はどう思っているのか。レイラは直接聞いたことはなかったが、聞くのが少し怖かった。
「まぁ、つまりは気を付けてってことだよ。グラスが計画の核だからね。それを制御するために姫様の存在は必要不可欠なんで」
「うーんでも……万が一私だけ生き残っても世界を壊せるんでしょうか」
「そこのところどうなのよ。契約魔法かけてるんでしょ?」
「その時は好きにしてよ。僕が死んだら魔法は解けるから。こっちもこっちで一応姫様が亡くなっても、姫様が溜め込んでいるグラスをある程度、吸収出来るようにしてるし」
「それ意味あるの?」
「別にいいだろ。ていうか、最悪の想定ばっかりしないでよ。こっちは本気でやろうとしているんだからさぁ……」
最終的にやんわりとルーンに怒られた。というより、あまりにもネガティブな話に持っていくので呆れられたというのが正しいかもしれない。レイラは申し訳ない気持ちもあるが、そもそも命を落とすかもしれないという話から派生したので、仕方のないことでは? という考えにもなった。いずれにせよ、行ってみなければ分からないことである。