昨日の出来事があったせいか、レイラの瞼は重かった。目を覚ましたくない気持ちが少なからずあった。それでも、起きなくてはいけない。体がいつもより重く感じたが、なんとか起き上がることが出来た。自分が最後かと思ったら、ヴェーダはまだレイラの中で睡眠中だったようだ。レイラはこんな状況でも眠れて羨ましく思うのだった。

「図太い魔女だなぁ。叩きだせばよくない?」
「そんなことやったら、絶対に文句言われますよ」

 レイラがその気になれば叩き出すこともできるが、恨まれそうなのでやりたくはなかった。
 それよりも昨日のことがレイラは気になっていた。

「あの……昨日はその。私、何か気に障るようなこと言ってしまったみたいで。ごめんなさい」
「ん? 何のこと?」
「え……」

 ルーンがとぼけた様子を見せたので、レイラは一瞬だけ怯んだ。昨日の出来事を寝ただけで忘れるわけがない。わざと、知らないフリをしているのだろう。あからさまに拒絶されてしまっている以上は、何も言えなかった。
 少し微妙な空気が流れたが、一気にぶち壊してくれる救世主が現れた。

「新しい朝ね! ヴェーダ様がお目覚めよ!」
「ヴェ、ヴェーダいつの間に起きていたのですか!?」
「……出ていったの、こっちから丸見えだったよ」

 ヴェーダはいつの間にか起きてレイラから抜けていたのだった。ヴェーダはその辺をふよふよ漂いながら状況を確認しているようだった。

「朝から湿っぽいわね。もっと明るく生きましょうよ。新しい朝なんだから」

 ヴェーダも人には言えない胸の内を秘めているようだったが、それを気にさせない明るく前向きな態度だった。寝る前に会話したヴェーダとは別人のように思える。気持ちの切り替えが上手いところは、レイラも見習いたいところだった。

「そういえば、姫様お腹は空かなくなったの?」
「そう! それなのですが、空腹を感じません。成功したと見るべきでしょうか?」

 レイラは空腹について、言おうと思っていたことを思いだした。他の話に気を取られ、すっかり忘れていた。

「空いてないなら成功したってことで。よかったわね。これで飢え死にすることが無くなったじゃない。偉大な魔法使いへの一歩よ」
「簡単にできることじゃないけど、なかなかのものだね。それにしても、ヴェーダも自分もグラスも賄えるレベルだとすると、どれほどの許容量があるんだろう」

 ルーンは興味深そうにレイラを観察していた。ルーンの視線が気になって、思わずレイラは目を逸らしてしまう。レイラとしては答えてあげたいが、自分でもよく分からないのでうーんと、首を傾げるしかなかった。謎のまま終わるかと思ったが、ヴェーダが何やら語りだした。

「私やルーンもそれなりにあるけれど、レイラはそれ以上ね。全く、比較出来ないレベルだわ」
「そうなのですか?」
「私は魔力を探知出来たり強さを測れるの。昔よりは精度が低くなっているけれど、それでもある程度は分かるわ」

 ヴェーダは元々、人が持つ魔力の量や性質などを読み取ることが出来るらしい。魔力の大元はグラスだが人の中に混じれば、自然と本人の個性が出てくるようで、それを読み取れるという。他にも魔力が読み取れることによって、危険を察知出来たり、どういった人物なのかを把握したりすることも出来るらしい。便利な能力だとレイラは感じていた。

「……人に見られるっていうのは少し複雑だねー」
「見える……見える。レイラ、貴方はやはり只者じゃなかった!! 私が見込んだだけのことはあるわ」
「そこまで言われると、恥ずかしいんですが」

 レイラはヴェーダに褒められ、こそばゆい気持ちになっていた。魔法の才能は無いと言われてきたのもあるせいか、素直に嬉しく思えた。

「それにしても、これほどの逸材をヴィオレットが放っておくなんて。陰謀を感じるわ」
「言い過ぎではありませんか? 才能が無いって魔法使いの人が嘘をついていたとしても……陰謀って」
「陰謀じゃなくて、その魔法使いがとんでもない詐欺師だったのかもねー」
「案外、詐欺師の魔法使いもいるから間違っていないかもよ。ていうか、さっさと行くんでしょ」

 ヴェーダはそこで話題を打ち切ったが、レイラは少し考えてしまう。レイラ個人の意見でしかないが、あの魔法使いは決して能力が低いわけではないと思っていた。その理由として、貴重な魔法書が保管されているヴィオレットの図書館の管理を任されていたからである。取り扱いを間違えれば命に係わるものもあると言われていた。そんな場所に中途半端な魔法使いを雇うだろうか。気になる部分もあるが、魔法使いの行方が分からない以上、考えたところでどうしようもなかった。