寂寞と郷愁

 結果的に、魔法は滞りなく成功した。ヴェーダの方はぴんぴんしていた。一方で成功した直後、レイラはばったりと倒れてしまった。慣れない魔法を受けた影響のようで、またベッドの上で横になっていた。
 それから目を覚ましたのはだいぶ時間が過ぎてからであった。

「体が、重い……これ、失敗していませんか」
「封印解いたばかりで、病み上がりだしね。普段から魔法を使っていないのも原因かな。副作用だね。しばらくしたらよくなると思うよ」

 ルーンはレイラの額に手を当てて熱を測っていた。レイラは普段から魔法を使っておらず、耐性がないため、体調を崩したという。魔法に触れていないものが、魔法に触れると思わぬ副作用が出ることもあるらしい。症状は人それぞれで大抵は、体が慣れるまで我慢するしかない。魔力の強い弱い関係なく、起こりうることだと言う。

「大変ねぇ。私はいろいろ試してくるわ~」

 ヴェーダは無事に体を手に入れ、いろんなものを触りまくっていた。これで真に復活したとも言える。体を手に入れたと言っても、レイラの魔力で形作っているだけなので、いざとなればレイラの中に入ることも出来るらしい。正直、体に入られるのは嫌だがヴェーダも生身がいいようで、入る気は無さそうだった。

「本当に復活したんですね」
「姫様に憑りついているし、生霊みたいなものだろ。本来なら、消えていてもおかしくないんだから」
「そう言われると、なんか微妙ですね。本当に契約してよかったのか」
「まぁ、彼女の力は本物だろうし。損は無いと思うよ」

 ルーンはヴェーダが仲間になることに関して、否定的ではなかった。契約魔法も請け負ってくれたので、相性が悪く見えたのは勘違いだったのだろうか。レイラがうーんと、唸っているとルーンが今後について話し始めた。

「とりあえず、姫様の体調が戻るまでは、このままで。治ったら出発でいいかな。なるべく早めに移動したいから」
「ごめんなさい。私のせいで」
「気にしないでよ。どっちかっていうと、あの魔女のせいだし」
「はは……」

 何となく笑ったものの、レイラは別のことを考えていた。このまま進んでよいのか。そもそも、どうしてこうなったのか――知りたい気持ちもあった。色々な感情がないまぜになっていた。

「……本当に、これでいいのでしょうか」

 流されるまま世界を壊すべきか。この道は正しい道だろうか――問いかけるもう一人の自分がいる。兄のことも含めて、正しさというものが分からなくなる。人生において、完璧な正答など無いだろうけれど、どうしても人は正しさを求める。

「念のために言っておくけど、今更やめるなんて言わないでよ」

 ぽつりと漏れた独り言はルーンに聞かれていたようで、再度釘を刺された。

「言いませんよ。でも、悩むのは許して欲しいです。災厄の力を継いだとはいえ、自覚もあまりないですし、魔法も扱えない無力な存在ですから」
「悩むなとは言わないけど、姫様が肝心なところで躊躇したら、計画が台無しになるからね。そこのところは――」
「そうなった場合は、あなたが私の背中を押してください」
「……は?」

 レイラの言葉にルーンの動きが止まった。本気で驚いているように思えた。

「私はあなたに助けてもらったのです。あなたの願いは叶えたいです。私の思考が不要なら切り捨てても構いません」
「……姫様」

 ルーンは一瞬だけ悲しそうな目をしたが、普通の表情に戻った。何か思う所でもあるのだろうか。自ら封印を解いておいて、少し疑問に思ったが、極悪非道そうな人間でもないので、そういうものかとレイラは納得した。

「わかったよ。でも、最終手段だ。姫様の気持ちが最後まで変わらないことを祈るよ」
「優しいんですね」
「そうでもないさ。優しかったら、女の子に世界の破壊とか頼まないって」
「それもそうですね。あぁ、そういえば。なんか、あなたと話していると懐かしい気分になるんです。初めて会ったのに、変ですよね」
「……疲れているんだ。休んだらよくなるよ」

 ルーンはそっとレイラの頭を撫でた。ルーンの表情は硬いままであったが、レイラは手の温もりを静かに感じ取った。

「そうだといいのですが」
「じゃあ、僕は色々と準備が必要だから、いったん出かけるよ。辛かったら、頭の中で話しかけてくれたら聞こえるから」
「本当ですか?」
「答えることも出来るし、なんなら一晩中話しかけてくれてもいいよ?」
「え、遠慮しておきます。それよりも眠いので、少し休みますね……」

 レイラは静かに瞼を閉じ、眠りについた。誰も喋らなくなった部屋に沈黙が訪れる。

「……人は変わるものだね。そういう生き物なのは分かってるけど」

 ルーンは気持ちよさそうに寝息をたてるレイラを一瞥すると、音を立てず静かに外へ出ていった。