ミオネの存在は何もかも変えていく。その場に残っていた汚れた空気は一掃され、彼女に支配される。悲しみも虚無も怒りも彼女の前では、何の意味も無いのだろう。
ミオネが言う「私の一部」というのは文字通り、散り散りになった欠片の一部ということ。元になる存在があるという話――だとミオネは言う。ミオネと柘榴はどうやら、ミュオソティスの真実を知っているようだった。恐らく、ミュオソティスと通じる前からの関係だったのだろう。ミュオソティスと私だけがよく知らないようだった。
それにしても、流れが不穏になってきた。これはもたもたしていたら、放置を喰らいそうなやつだ。普通に置いてかれても困るので、あえてここはあえて聞こう。聞いた方がいいよね……?
「どういうこと?」
「話せば、かなり長くなります。私の存在についてか、ミュオソティスの由来から話すか……どちらがいいですか?」
「あんたの存在から簡単に教えてよ。あの時は有耶無耶にしていったけど、今度は喋ってくれるんでしょうね」
ミオネは相変わらず澄ました態度で私を見ている。ミュオソティスはというと威勢のよさも消えて、完全に沈んでいる。柘榴は成り行きを見守っているようだった。
「えぇ。お話ししましょう。私は元々、人の心に寄り添い、束ね未来を創る存在。どこにでもいて、生きとし生ける者たちを見ているのです」
「……心」
すごい不思議な話だった。語彙も吹っ飛ぶくらいの。心なんて曖昧なものなのに。
「願った未来を創る力が私にはあるのです。心からの願いを糧にして、その対価に未来を描く。私はずっとそうやって、人々の側に知られることなくひっそりと寄り添ってきました」
「なんで、お前が未来を創れて私には出来ないんだ!!」
ミュオソティスは大層お怒りのようだった。あんな姿、初めて見た。
とは言っても、会ってからそんな日にちはたっていない。それでも、意外な姿だと思えるのは、先程の態度から一気に崩れたからだろう。それほどまでに、ミオネの言葉は逆鱗に触れるものだったのか。やはりミュオソティスのことはよく分からない。ミオネのことはもっと分からないけど。
「それが先程の答えですよ、ミュオソティス。貴方は私の無くした欠片。後悔、羨望、絶望、憎悪――そうですね……人間らしく温かみのある言い方をすれば、人間に憧れたもう一人の私なのです」
「え――」
ミオネの言葉に驚きを隠せなかったがそれ以上に、ミュオソティスはショックを受けたようだ。ミュオソティスは、その場で動かなくなってしまった。
「この世界じゃ君は強いけど、ここも所詮は数ある可能性の一つでしかない。本来のミュオソティスは、世界を見守っている存在らしいからね」
「……柘榴は最初から知ってたの?」
「長い付き合いってほどでもないけど、ミオネとはこの世界へ来る前から、やりとりはしていたからね」
そもそも、私たちをこの世界に飛ばしたのはミュオソティスではなく、ミオネだ。私はほとんどミオネと会話した記憶が無いけど、柘榴――クロの方とはやり取りをしていたんだ。私、猫以下の存在? いやいや、ショックを受けるところ違うでしょ。
「いきなり、こんな話聞かされてもキツいだろ?」
「……確かに、そうだけど」
「ミオネなりの気遣いだと思ってよ。僕には何言っても問題ないと思って、べらべら喋ってるだけだから」
「はは……」
クロに対して、愚痴を吐いていたときを思い出してさらにダメージを受ける。柘榴にそんな意図は無いんだろうけど、胸が痛くなる。
「そこの黒猫は弁えていて立派だと思います。それこそ、悲しいくらいに」
ミオネは憐れむように柘榴を見下ろす。柘榴は何も言わず黙っていた。
「それに引き換え、私の残骸は現実から目を逸らして、希望を砕くなど。嘆かわしいばかりです……」
ミオネは残念そうにため息をついていた。ワクワクしたら、期待外れだったときのような感情だろうか。何にせよ分かっているのは、話が大きくなっていることだけ。一体、私はどこへ向かっているんだろうか。