色々あった今日、疲れもたまっているし本当なら眠りにつく時間だったが、眠れなくて柊さんの下を訪ねた。柊さんは指令室にいて、五月七日さんもいた。あれから五月七日さんはお姉ちゃんの件に関して顛末を聞いたようで、柊さんと話していたらしい。抜け目ない人だなぁとつくづく思う。そういう流れもあって、私は何となく気になっていたことを柊さんに聞いてみた。
「色々と話を聞いたんですが蘇芳さん……心読むのが好きじゃなかったらしいんですけど、どう思います?」
「本質を知るのが嫌だったから――理屈的にはあり得ると思うけどな」
「それはそうなんですけど。何となく気になって。霞のこととか、色々と知っていたから」
あくまでも読み取れるのはその場であった出来事。どう思って飛び降りたのかまでは分からないはず。一応推測だろうけれど少し気になった。
「なんだかんだ言っても、あいつは情報収集が仕事だったし、理解出来るかは置いといて観察する目は長けていたからな。空魔繋がりなら空木が戦った奴とかクロユリとか、色々いたようだし、いくらでも聞けるだろ」
仲間意識は感じていたと言っていたが、個人同士の仲はどうだったのかは不明だ。だが、少なくとも柘榴とは相性が悪そうだった。あの時だけかもしれないけれど、何となくそう思った。本当にただ遊んでいるだけで他人に興味が無かったら、空魔とも縁が無かっただろうに――と思ってしまう一方で、蘇芳さんは空魔になって良かったと心から思っていたのだろう。そうでなければ、真実を知ることも無かったのだから。許せない部分もあるけれど、あの人にとってはあれが正解かもしれない。
「ある程度、他者へ関心が無ければこんな場所にいませんよ。菜花君に限らず、誰だってそうです。空魔と人間は切っても切り離せない関係にありますから」
確かに空魔研究所は人に興味が無ければ関わることもなさそうな場所だ。蘇芳さんのことだし、どうせお姉ちゃんや柊さんの後を追いかけたんだと思う。ここに来なければよかったと思う反面、良かったこともあっただろう。最後の最後に本音っぽいものは聞けたし、あれこれ考えても、蘇芳さんはもういない。未だに少しやるせない気持ちにはなるけれど、本人が満足しているのなら、他人がこれ以上口出すのは無粋だろう。
「空魔と言っても、所詮は元は人間ですし。人間の範疇からは出られないんですよ」
五月七日さんの言葉は身も蓋もないが、たしかに元は人間なのだから当たり前か。しばらくの間、指令室は誰もいなくなったかのように静まり返った。
「……それよりも気になることがあります」
少し間を置いて五月七日さんが新しい話題を切り出した。
「水城君の話を聞く限り……祀莉さんが空魔になったのは、所長が原因ってことになりません? あーでも空魔になった瞬間の姿は無かったんですよね」
「無いが……十中八九関係してるだろうな」
忘れていたわけではなかったけれど、そういえばと思った。ただ、あまりにも信じられない話だったので、頭の片隅に置いたままだった。柊さんはうーんと唸りながら、机の上に置かれたタブレットへ視線を落とした。所長はここにいないし、考えたところで答えは出ない。
「所長はどこにいるんですか? 直接本人に聞いた方が早いと思います」
そう言うと、五月七日さんと柊さんはそろって困ったような顔を見せた。
「それが出来たら苦労しねぇよ」
「えぇ、神出鬼没な方ですからね。とは言っても、用があれば出向いてくる人なので、私の勘ではもしかすると――」
と、五月七日さんが珍しく険しい顔をした瞬間、指令室の扉が開かれた。
「さすが、榠樝。僕のことを分かっているのさ」
トップのはずなのに、普段どこにもいない。呼んでもないが、お呼びでないわけでもない――
私たちの会話を聞いて狙いすましたかのように、星影所長は突然現れた。全てを見通しているかのような虚ろな瞳。五月七日さんはこうなることが分かっていたのか至って平静で、柊さんは面倒事がやってきたと言いたげに額に手を当て、その中で私は一人、ぽかんと立ち尽くすしかなかった。