私の世界は気付いたら灰色だった。
心に残るような思い出が無かった。皆が当たり前のように感じる喜びを、この世界に見出すことが出来なかった。みんなが笑っているのに、私にとっては遠い星の出来事のようで、私は独りぼっちで世界を彷徨っていた。周りとの違いは、私にとっては耐えがたい苦痛だった。みんなが当たり前のようにやっていることが何故自分には出来ないのかという劣等感に苛まれていた。
私が間違っているのか、周りが間違っているのか――それすらも分からない。いつから私はこうなってしまったのか。何も感じないことを、感じなければいいのに――いっそのこと心など無くなれば――そう願わずにはいられなかった。
昔から何をやっても上手く行っていた。失敗という失敗をほとんどしたことが無いと記憶している。学者である親や周りから期待され、何不自由もない生活が約束されていて、私のことを『神様に愛された子』と言う。天から与えられた才能は確かに私の将来を保証してくれるだろう。
しかし、私からすればそんなものはどうでもよかった。神などこの世界にはいないし、無いものに縋ろうとは思わない。神に愛されているはずの、私の世界はひどく寂れ、荒涼とした大地がどこまでも広がっていた。日々に楽しさを見出すことが出来なくて、心は荒む一方だった。そんな私の心とは裏腹に、親の期待は日増しに大きくなっていく。その重圧に耐えきれなくなったということは無い。むしろ、上手くいきすぎているくらいだ。ただ、親の期待に応えて褒められても、器が満たされることは無く、空っぽなまま無為に時を過ごしていた。
そんな生き方をしていたら、当然変わることなどない。成長すれば変わるかもしれないと思ったけれども、私の目に映る世界は何も変わらなかった――
色の無い世界に色を描き足していくには、自分で色を探すしかない。私は世界がひっくり返るくらいの劇的な物語を求め、世界を旅することにした。はした金をもって何もかも捨て、知らない世界へと飛び出した。家がどうなろうと知ったことではない。私はとにかく、自分の見る世界に色を付けたかった。世界は広くて、言葉も通じないこともあった。平和な国もあれば争いの絶えない国もあった。途中で私はどこまで自分が出来るのか試したくなって、紛争地域で武器の開発に携わったりした。自分が作ったものの成果を見るのは楽しかったが、何かが違うような気がした。人の命など安い世界だったが、果たして本当にそうなのか――私は疑問を抱えながら、戦場を渡り歩いていた。家にいた頃よりは楽しいが、求めていたものはこんなものだったのかという気持ちが強かった。
そんな私の色褪せた世界を変えたのは、一人の女性だった。
彼女は積極的で求心力があった。彼女の周りには人が絶えない。性格は明るく元気で、曇りのない瞳は私と違い希望に満ちていた。私は彼女のことが知りたくなった。私がこんな気持ちになったのはいつ以来だろうか。彼女といると世界が色づいて見えた。彼女と見る景色はとても綺麗でどんな名画にもたとえられないくらい美しかった。世界には思った以上に色がついていたことを、教えてくれた。私の気持ちが変わっていったのはその頃だった。あまり他人に興味は無かったけれど、周りに目を向けてみれば様々な人間がいるではないか。多種多様で、色んな色を持っていて、誰一人として同じものはいない。私は自分の世界の狭さを恥じた。私が閉じて、勝手に絶望していただけなのだ。世界はこんなにも楽しいことが転がっているのに、私は彼女に出会うまで気づけなかった。気づかせてくれた彼女には感謝しかない。
けれども、私にきっかけを与えてくれた彼女は、もうこの世界にはいない。彼女と同じ場所に行けたらと何度も思ったけれど、自分のこれまでの行いでは到底無理だなと冷静に思う。このやり場のない気持ちをどこにぶつけようか――私は今日も誰もいなくなった荒野を独り彷徨っていた。