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「大正解。さすがに、ここまでくれば分かるか」」

 肯定の言葉と共に、蘇芳さんは拍手をしながら笑っていた。自分で言っておきながら、理解出来なかった。裏切られた怒りやら虚しさやら、複雑な感情が渦巻く。

「あの……柊さんは知っているんですか?」
「言っては無いけど、どうだろうな。あいつなら知ってたとしても、言わないと思うけど……」

 蘇芳さんは言葉を濁す。柊さんに言っていないとしたら、誰も知らない情報だろう。あの人は裏切るような人ではないことは分かっている。だとすれば、これは蘇芳さんだけの問題だ。

「無理やり空魔にされたんですか?」

 そうであって欲しいという願望でしかない。そんなことがあるはずがないと、心のどこかで思っていた。そんな私の思いも虚しく、蘇芳さんは首を横に振る。

「自分の意思だよ。人型の空魔はなろうと思ってなれるものじゃないからね」

 人型の空魔のサンプルは少ないが、あの時のクロユリを見ている限り、彼女は嫌々なったわけではないのは分かる。霞が殺した空魔――玖金理真も空魔として能力をフルに活用していたようなのできっと、望んでなったのだろう。蘇芳さんも例外ではないということだ。

「どうして、そんな」
「なんでかねぇ……」

 一瞬だけ憂いが見えた気がした。ここではない遠くを見ているような瞳。
 しかし、その表情は一瞬にして消え去り次には笑っていた

「でもまぁ、空魔はいいよ。人の心が覗けるし色んな力が使える。ただ、定期的に人の心を喰わないといけないのは面倒だけど」

 片手で望遠鏡を作りのぞき込む仕草をした。まんざらでもなさそうに語るその姿は、後悔もへったくれもない。本当にこの人は望んで空魔になったんだ。普段からふざけている態度ではあったけれど、実力は認めていたのに――世界がひっくり返ったような気持ちだ。

「いつから……」
「だいぶ前からかな」
「他の人型空魔たちは仲間なんですか?」
「仲間って言うよりは、同類みたいなものだよ。組織の方より仲間意識はあったかも」
「裏切りじゃない!」

 思いっきり声を荒らげて糾弾した。けれども、蘇芳さんは笑っているばかり。どこまで人を馬鹿にすれば済むのか。

「ごめんよ。仕方ないんだ。こればっかりは、そういう契約だし」
「何が仕方ないのよ! 最低じゃない、こんなのって」

 反省の素振りもなく、悪びれもせずに言うものだから、腹が立って仕方がない。けれども、ここで当たり散らしても何も変わらない。
 今の私は武器も何も無い丸腰。ハーツがあったとしても、微妙だけれど、今は情報を引き出す方に集中した方がいいだろう。冷静、平静に。許せないけれど、私が望んだものは真実。ちゃんと受け止めないと。

「……蘇芳さんが空魔になったのは分かりました。だったら次は、お姉ちゃんのこと教えてください。私はそのために来たんです。忘れてないですよね? 私は真実を知る為に来た」
「忘れてないけど、条件があるって言ったのは覚えてる?」

 どうやら、忘れてはいなかったようではあるものの、含みがあるような言い方だった。何を吹っ掛けられるか――身構える。条件なら、多少のんでやらないこともない。正直、今の蘇芳さんに従うのは癪だけれど、易々と教えてもらえるとは思っていないし仕方ないかと思っていたが、私は状況を軽く見すぎていた。

「空魔になってよ。俺と同じようにさ」

 蘇芳さんから出された条件はあまりにも、笑えない冗談だった。二度も聞きたくない悪夢のような条件。言いたいことは山ほどあるけれど、言葉が出ない。

「それが出来たら教えてあげてもいいけど。どうする?」

 空魔になるって、どういうこと。同じように? 人の形を保ったまま空っぽのまま? それとも私がよく撃退する真っ黒な空魔なのか。なんにせよ、のめる要求ではなかった。熟考する価値もない。こんな要求のむ方がおかしい。

「そんなこと出来るわけないでしょ!!」
「出来ないんだ。その程度の覚悟で来たの? 茉莉花は……本当に……あは、あはは!」

 狂ったように笑いだす。面白い玩具を見つけたかのように、背筋が凍るような笑みを浮かべた。

「本当に、笑えるくらい可愛いよ」

 そう言うと、私の足元から黒い影のようなものが伸びてきた。そして、私を縛っていた影と一つになる。これは縄じゃなかったのか――気づいたときには遅かった。空魔の攻撃に似ているが、無節操なものではなく、機械的に私に絡みついて縛り上げていく。首も容赦なく締め上げるせいか、息がままならない。地に足がつかなくなって宙ぶらりんになる。

「……がっ、あ、っ」
「簡単には殺さないよ。楽しみたいんだ。遊び相手になってくれよ」

 私は何か間違えた? 間違えてないはず。空魔になって真実を得たとしても、意味は無い。私が私であることが一番大事。それを抜きにしても、空魔になるという選択肢はあり得ない。その結果死が待っていたとしても――どうにかしてこの状況を脱しなければ。

「意外と冷静だね。もっと、暴れるかと思ったな」
「当たり前じゃない! 私は空魔を倒すんだからッ!!」

 必死に叫んでも、体がぎゅうぎゅうと締め付けられるだけ。人型じゃない空魔の攻撃に似ている。触手のようなものを伸ばしてくるタイプ。
 しかし、今回は刺してくるわけでもなく、影が全身にへばりついてくる。体術は心得ているものの、この状況をひっくり返せるほどの力は無い。動かそうにも全く動けない。殺さないと言っていたが、果たしてどこまで信用していいのだろう。というか、空魔の時点でこっちとしては殺すしかないんだけど。前々から思っていたけれど、ハーツは常に携帯出来るようにするべきだと思うわ。

「こっちでの攻撃は、ほとんどやったことないんだよね。今は空魔になった分、ハーツは十分に使えないけど、使い慣れた武器の方がいいね」

 蘇芳さんは銃を構えていた。見ていると心ごと飲み込まれそうな、漆黒の銃。あれも言い方からしてハーツなのだろうか。空魔としての攻撃をほとんどやったことないと言いつつも、かなり使いこなしているように見える。そう思うと、やっぱり人に教えているだけはある。悔しいけどそこは認めざるを得ない。って、褒めてる場合じゃないし。
 ハーツが十分に使えないというのは、空魔だからだろうか。ハーツは人の思いに反応する武器。空魔には心が無いって言うし、そういったものなのかもしれない。だからといって、私にチャンスが巡ってくるわけじゃない。

「心も無いのに、ハーツを持ってるとか宝の持ち腐れじゃない」
「確かにね。ただ、茉莉花は一つ誤解をしているね。別に全く使えないわけじゃない」

 そう言って蘇芳さんは銃を構え、躊躇なく引き金を引いた。銃弾は私の髪を掠っていった。

「ハーツと言っても、武器としての基本性能はあるから、実用性は十分なんだ」

 ハーツは既存の武器をもとにして作られている。たとえ、心がなくて強化が出来なくとも、人間を傷つけることくらい容易い。私は心のどこかで見くびっていたのだろう。どうせ、殺されることは無いと油断していた。あんなの真に受けるなんて馬鹿じゃない。
 落ち着け、まだ死んでない。とにかく観察するしかない。何か手掛かりがあるかもしれないと思い注意深く観察する。そして、私はあることに気づいた。蘇芳さんの持っているハーツ。あれはこの間、特訓してもらった時には持っていなかったはず。蘇芳さんの武器は二丁拳銃だけれど、そのどちらでもない。
 使い慣れた武器と言っていたが、本当だろうか。
 そう思った刹那――

「……っ!?」

 電流のようなものが頭に走った。反射的に蘇芳さんのハーツに視線が向く。まるで引き寄せられるかのように――

『救って、どうか』

 懐かしい声で、はっきりとそう聞こえた。声と同時に一瞬だけ見えた風景には、お姉ちゃんらしき人が見えた気がする。お姉ちゃんの他にも、誰かがいて何か話しているような状況だった。私が見たものはただの幻かそれとも、本当にこれは。私の異変に気付いた蘇芳さんが、訝しむ様に睨む。
 
「……どうかした?」
「声が――聞こ、えた」

 心を読まれているのなら、隠したとしても意味ないだろう。私は自分の体験したことを素直に告げたのだが、蘇芳さんは心底驚いている様子だった。不意打ちを食らったかのように動揺している。少なくとも蘇芳さんには何も見えず、聞こえていないようだ。一体どういうことなのだろう。ハーツの持ち主なのに。

「そんな……まさか。いや、あり得るのか。だとしたら――」

 予想もしていない反応だったようで、影の拘束が解けた。
 ぶつぶつと何か言っているが、明らかに蘇芳さんの持っている銃には何かがある。お姉ちゃんの幻なら、きっとお姉ちゃんに関する手がかりがあるはず。

「何なの、よ」

 拘束が解けたものの、思うように力が入らず床にへたり込んでしまった。蘇芳さんはというと、我に返り私の声に反応しハーツを握りしめた。

「普通のハーツだよ。かなり癖が強いけど。確かめてみる?」

 問いかけと同時に、私にお守りと言ったハーツを軽く投げた。上手くキャッチ出来たものの、お守りにしては扱い方が杜撰すぎやしないだろうか。ハーツをじっくり観察してみるが、特に変わった様子はない。耳に当てても何も聞こえない。私の幻だったのか。けれども頭に痛みは残っている。幻想とは思えない。

「…………」
「武器が喋るわけないだろ。核が人の心だったとしても、そんなことあるわけない」

 ぶっきらぼうに言う蘇芳さんの口調は、どこか苛立っているように聞こえた。何に苛立っているのかは、分からないけどかなり珍しい。核は強い思いを残した空魔――元々人間だった空魔――から出るもの。核に関しては未知数な部分が多いと聞く。存在しないとはっきり言い切っていいものなのか。

「納得いかない」
「返してくれよ」

 そう言われて、私はあることを思いついた。手元にあるハーツをじっくりと眺める。空魔はハーツでしか倒せない。チャンスなのだろうか。深く考えず私は銃を構えていた。このまま引けば――

「……撃ったら、死ぬの?」
「試してみれば?」

 蘇芳さんに煽られたが手は震えるばかり。ハーツと言っていたし、空魔に効果があるかもしれない。でも、蘇芳さんは動こうとしない。見くびられているのか。人の形をしていたって空魔は空魔。躊躇っていたらこっちがやられる。見知った顔なので心苦しいがやるしかない……でも、空魔じゃなかったら? 全部夢だったら? そんなこと。それなら悪い夢であって欲しい。見たくないもの。真実だというの? これが?
 
「……色々と考えているところ悪いけど、空魔は核が壊れない限り死なない。それは人型も変わらないんだよ」

 私がもたもたしていると、蘇芳さんはひょいと私からハーツを取り上げた。結局私は何も出来ないまま、俯くばかり。私には撃てないという事実だけが示された。こんなんじゃ、霞に笑われるだろうな。やっぱ私を連れて行かなかった霞の判断は正しかったと思う。私は捨てきれない。どうしても、思い出してしまう。昔の記憶も、お姉ちゃんの姿も。今となっては、もう望めない未来なのに。

「人って簡単に変われないものだよ。ずっと過去に縛られてる。重荷になると分かっていても、忘れられない」

 懐かしむように語る蘇芳さんの姿は、かつての姿を思い起こさせる。空魔になっても覚えているのだろうか。私の中ではまだ、思い出は消え去っていない。お姉ちゃんもいて、蘇芳さんがいて、柊さんがいて何もかもが楽しかった頃。蘇芳さんが話しかけてくれたとき、私は内心嬉しかった。あの頃の私は、蘇芳さんに淡い思いを寄せていた。この思いは蘇芳さんには言わなかった。きっと、蘇芳さんも気づいていないだろう。所詮一過性のもの。自然に消えていったというのもあるけれど、それ以上にお姉ちゃんが蘇芳さんのことを慕っていたから。お姉ちゃんはずっと否定していたけれど、絶対に蘇芳さんが好きだった。文句を言いながらも、ずっと離れなかったし。何で言わなかったんだろう。言っていたら少しは変わっていただろうに。どうして、こうなってしまったのか。空魔になってしまったら、心も無くなってしまうのに――

「なんで、なんで」
「……俺さ、それなりに洞察力はあると思ってるんだけど、自分の心は全く分からないんだ。笑えるだろ」

 自嘲気味に笑う蘇芳さん。なんて事のないように語るその姿は痛々しく見える。空魔になってよかったと言っていたくせに。何で苦しそうに見えるのだろう。どうして、空魔になった理由と関係あるのか。自らの意思でなったと言っていたから、それなりに理由はあるはずだ。空魔になれば、願いが叶うとか何かあったのかもしれない。

「さっきははぐらかされたけど、空魔になった理由って何なの? 自分の意思でなったって言うのなら、理由くらいあるでしょ」

 私の指摘に動じず、むしろ聞いてくるのを待っていたかのように蘇芳さんは語る。

「なった理由ねぇ……しいて言うなら茉莉花と同じ、真実だ。俺は真実を知りたかった。だから、裏切って空魔になった。彼女は叶えてくれたよ。真実はすぐそこにあった。望みどおりだ。何もかも!」

 蘇芳さんの『彼女』という言葉は、空魔のボスを指しているのか。少なくとも、空魔は蘇芳さんの望む真実を示してくれたようだ。一体、蘇芳さんは何が知りたかったのだろう。エンプティに居たら分からない真実。興奮気味に語っていた蘇芳さんは落ち着きを取り戻し、私の方へ冷たい目線を向けた。

「俺がこんな感じだからね。知りたいなら同じ場所まで来てもらわないと。釣り合わないだろ」

 蘇芳さんは空魔になって知りたかった真実を知った。知りたいと願うなら、同じように空魔になれ。自分がそうだったから、相手もそうあるべきだ。分からなくもない理屈だし、当然と言えば当然なのだろう。
 私の中で答えは決まり切っていた。

「言い分は分かったわ」
「それで、どうする?」
「お断りよ。空魔になるわけない。そこまでして知りたくない」

 空魔になって得られたものに意味はあるのだろうか。真実を知りたいとは思うけれど、人であることを止めてまで知りたいとは思わない。真実を知るのが怖いとかそういうものでもなく、純粋にそう思ったのだ。本音を言えば、真実は知りたい。出来るなら空魔にならない方法で。私が私のままで受け止められなければ意味ない。空魔になってしまったら、理性も何もかも無くなってしまうのだ。どんなに凄惨な真実が隠されていようとも空魔になってしまったら、何も感じなくなってしまう。受け取ったとしても、淡々と処理されてしまうかもしれない。
 それに、空魔になって本当に全て知ることが出来るのか。到底、払拭出来ないであろう違和感が纏わりついていた。
 空魔になって真実を得たのに、私の目に映る蘇芳さんは満足している様子には見えなかった。空魔は足りないものを満たすために魂を喰らうと言われているが、まさにその姿が私の目の前にあった。全て知ったわけじゃないと思ってしまうくらい、飢えているように見える。

「人の心は簡単じゃない。心が見えるからって思い通りに動くと思わないで!」

 心を見ただけでその人の全てを理解出来るはずがない。
 私と貴方は違うから――それぞれ、別の道を生きているし、別の世界を見ている。だからこそ言葉を交わし繋がって、理解していくのだ。人とはそういうものじゃないのだろうか。空魔になるということは、全てを捨てて自分の世界に閉じてしまうということではないのか。

「そんなの分かってるって。ははっ」

 私の心でも見たのか、蘇芳さんは静かに呟いた。そして、黒い空魔の手みたいなもの出現させて私を掴んでベッドへ放り投げた。柔らかいのでそんなに衝撃はなかったが、一瞬の出来事で何が起こったのか全く分からなかった。気付いたら、私は蘇芳さんの顔を見上げていた。

「……繋がるって、いいよね。好きな響きだ。繋がってるときは、愛されてる感じがするから。必要とされてる気がするから。俺はずっと求めてるんだ」
「何を言って、」

 蘇芳さんが私の胸を指でなぞる。受け入れがたい、嫌な感じだ。これから起こる展開を何となく、想像していた。ちょっと前なら胸を躍らせただろうに、今はそんな気持ちにもなれない。なれるわけがなかった。男の人に押し倒される状況で何が起こるか――漫画みたいで非現実的。でも、こんな状況だとロマンの欠片も感じられない。って、余裕ぶっている場合じゃないんだけれど。ヤバい、これヤバいって。死ぬ!
 
「どいて、ください……」
「俺ね、色んな子と色んな言葉、交わして繋がったよ。けど、最終的に俺の心に全く響かなかった。彼女の言葉以外は――それでも、愛されるのは悪い気がしないから嵌ってね。必要とされている気がして、そこにいてもいい気がして……なぁ、分かるこの気持ち? 愛って難しいよな。何が本当で偽物なのか全く分かんねぇや。俺のことを最低だとか、クズだとかいうヤツはたくさんいたよ。それでも真面目に向き合ってくれたのは彼女だけなんだよ。何でだろうなぁ。人間って、マジ意味分かんねぇ」

 遠い過去を懐かしむ様な優しい声をしつつも、瞳は深く闇の中に堕ちているようだった。言っていることは意味が分からなさすぎるけれど『彼女』が誰のことを言っているのかは、さすがに分かった。今の蘇芳さんは私を見ていない。いつまでも、お姉ちゃんの影を追っている。無意識なのだろうか。空魔になる前、蘇芳さんはお姉ちゃんが好きだったのか、いまいち掴めなかったけど、こうして見るとやっぱり好きだったんだなぁと思う。
 居なくなってから、気付いたのだろうか。もっと、話していれば普通に気づいただろうに。特別に思う理由が分からないから、誰彼構わず愛されるのを受け入れていたと思うと、怒りを通り越して哀れみの気持ちがこみ上げる。ただ、この事実を告げたとして、解決するとは思えない。それにしても、私の心は見えているのだろうか――虚ろな表情で蘇芳さんは淡々と語る。

「理解していくものなら。もっと、教えて欲しいな。教えてくれよ。彼女は色んなことを教えてくれたよ。だけど、もういない。あの声も髪も触れることは出来ないんだ。全部、俺が――」

 私は、祀莉じゃない――言おうと思っても、首を絞められてしまい何も言えない。今、私が欲しいのは真実よりも酸素だった。

「祀莉の代わりになれよ、あは、はは。あはははッ」
「はぁ……ッ!?」

 さらっととんでもないことを言われた。呆れも怒り哀れみも通り越して、脱力してしまう。どうして本当にこうなったのだろう。正しい選択肢を選んだとしても、詰んでいる気がする。女癖の悪さはお姉ちゃんから聞いていたけれど、悪質すぎる。色々言ってやりたいが、呂律どころか、命の危険を感じる。このまま私は命尽きてしまうのだろうか。

「時間はまだある。じっくり、楽しもうじゃないか」
「…………何、を」
「分かってるくせに」

 首絞めは解けたけれど、今度は制服のボタンに手がかかる。手つきがこなれているのを見ると、どうしようもない人だなぁと思う。何でこんな人、好きになったんだろう。馬鹿馬鹿しい、私自身にもお姉ちゃんに対しても思ってしまう。それでも、抵抗出来ない。しようにも、拘束されているから。まさか、こんなことになるとは思ってもいなかった。真実を掴むどころか、犯され闇に葬り去られてしまうなど、本末転倒である。
 せめて、奇跡があるなら――どうか。

「お楽しみのところ、悪いけど邪魔させてもらうよ……っと」

 私が目を瞑った瞬間、聞こえたのは全く知らない誰かの声だった。