玖金理真という人間は空虚だ――誰かに言われたら絶対に殴っている。
だって、そんなの知らない奴に言われたら腹が立つでしょ。とは言っても、似たようなことを言われた時には瀕死だったから、なんも出来なかったけどね。自分でも分かっていたから、何度も言ってんじゃねぇって言いたいわ。
私の人生は、無色透明だった。ほどよく満たされてはいたけど、肝心の中身は味のないジュースみたいな。
強いて言うなら、初恋の相手がくれたハートの髪飾りくらいか。ゴミ箱に直行してもいいくらい、ダサかったけどずっとつけていた。その理由は今でも分からない。まぁ多少なりとも愛着があったんでしょうね。どうでもいい話だから飛ばすわよ。
私の家には父親という存在がいない。いたとしても、一般的に父と呼ばれる男は、一か月くらいで顔触れが変わる。母親は機嫌が悪いと暴力をふるう。年齢も考えさせないほど、男好きだった。男の目が私に泳ぐと、すぐ殴ってくる。私はただいるだけなのに。家族には姉もいたけど、私とは少し年が離れていた。昔から荒れていた姉は不倫相手と駆け落ち。馬鹿みたい。
そんなわけで、家はいつでも荒れ放題。無法地帯と呼んだほうがいいレベル。そんな中でも私は私なりに頑張ってきた。汚いより、綺麗。醜いより、可愛い。世の中を上手く渡るために、自分磨きは欠かさなかった。金を稼ぐために色んな男と寝た。手っ取り早いし楽に稼げた。でも、おっさんの相手はキツかったから、適当に稼いだ後はやらなくなった。
そんなことをやっていたら、嫌でも噂は経つし、私に友達と呼べる人は一切いなかった。女は妙に勘が鋭いし、うるさいから相手にしたくなかった。別に相手にしなくとも、女は私を嫌うし私も私以外の女が嫌いだったから、問題なかった。こう思ってしまうのは、身近に馬鹿みたいな女がうじゃうじゃいたからなんだろうけど。こんな私だけど、勉強はそれなりに頑張った。良い大学に行ければ、色んな男がいるだろうと思って、テスト前は図書館とかカフェで勉強しまくったわ。テストの成績は平均よりちょい上。その結果が気に喰わない奴もいたけど、私より真面目に生活してそれってやべーじゃんとか、内心見下しまくった。実際ヤバいし。もちろん、男漁りも忘れてない。おっさんから足を洗った後は、顔面偏差値高めの男ばかりを狙った。ガードが堅い奴も多いけど、全員がそうじゃない。男は基本的に馬鹿が多い。探すのは苦労しなかった。愛をくれたら、私は相応の愛で返す――私の許可なく離れようとする相手がいれば、どんな手を使ってでも沼に引きずりこんだ。
だけど、世の中そんなに甘くはなかった。失敗することはあった。
でも、私のせいじゃない。相手が悪いのよ。私をないがしろにする男が悪い。私を罵る女が悪い。お前たちが破滅したのは私のせいじゃない。こういう時に心が見えれば、楽だったんだけどね。一度の失敗が、私の全てを奪っていった。
たまたま遊んだ男が二股かけていたの。偶然彼女と鉢合わせしてね。女が私とは遊びだったんだ―とかほざいて修羅場ったときに、めんどくなって男をそのままポイ捨てしたのね。流石の私もそこまで慈悲深くないから即座に終わったんだけど、そいつさ、私のせいで彼女に捨てられたとか言うの。逆恨みもいいところよ。
んで、訳の分からない言語を発しながら、思いっきり腹を刺してきやがって死にかけたのよ。つーか大量出血で死んだんだけどさ!!
そんなときに出会ったのがあいつ――ミュオソティスだった。私を空魔にする代わりに、一つだけ条件を出したわ。
『見かけは自由になったかもしれないが、所詮は死人。いつか魔法は解ける』
御伽噺のようだった。だって、人を操れるわ、刺されても死なないわ魔法みたいでしょ。
『引き際は自分で考えろ。私は……こんな世界など望んでいないから、いずれ消える』
空魔は自殺出来ないから、世界が終わる前にさっさと誰かに殺されて消えろってさ。彼女なりの恩情だろうと思った。死ねって言うけど、だったら、何のために空魔にしたんだっつーの。意味分かんなーい。そこは教えてくれなかったけど、どうでもよかった。私は奇妙な運命で期限付きだが二度目の人生をスタートさせた。私と似たような奴は何人かすでにいた。誰もが何かしらの願いを抱いていた。あいつらがどんな願いをもって空魔になったのかは知らない。私には関係ないから。
「これが私の話。どうせ、終わるんだから、お喋りになってもいいでしょう」
夜風が吹く中、視線の先には無表情の霞がいる。私の話など、興味ないと言わんばかりの反応である。
「嫌と言っても、垂れ流すつもりだったんだろ。だったら好きにするといいさ」
私の想った通りに、絵は完成していく。夜明けまで、まだ時間はある。この世界はどうせ、洪水に巻き込まれて死ぬ。私はお言葉に甘えて、一足先に脱出させてもらおうじゃない。
「私を殺すのね? いいわよ。どんなふうに? 内臓を引きずり出して、綺麗に飾ってくれてもいいわ。串刺しにしようが、晒し首にしようが、私は何でも受け入れるわよ? 貴方の望むまま、私は散ってあげる」
それが、貴方の愛なら私は喜んで受け入れましょう。持たざる者同士、私たちはどこまでも一緒。
「最高な時間にしたいでしょ? 貴方と私は地獄の果てまで踊り続けるの。楽しみね」
「文字通り、地獄絵図だ」
終わりの時間は近づいている。ここは、私たちだけの世界。誰にも邪魔はさせない――
月明かりに照らされた最高の舞台。
「どこまでも一緒に逝きましょう……ねぇ、愛しい人」