7

 足掻いている貴方がとても愛おしい。私を愛してくれる貴方がとても愛おしい。

 貴方を理解出来るのは私だけ。私だけを見て。恐れるものは何もない。

 貴方の不安や孤独は、私が全て拭ってあげる。
 だから、貴方も早くこっちへ来て。

 そうすれば、私はとても幸福な真実を抱いたまま逝けるから。

「壊した先にしか見られないのね。可哀想に」

 誰もいないベッドを見つめる。窓から見える景色は代り映えのないものだった。立ち並ぶビルは元々住んでいた場所を思い出させる。部屋はいくつかあるけれど、この部屋くらいしか使い道がない。
 そもそもここは私の家ではない。元々住んでいた男がいたけど、邪魔になったから出て行ってもらった。今は私の別荘ということになっている。あまり物を置くのが趣味じゃないと言っていたか。好みではあったけど、私の終わりには相応しくなかった。

「愛がないと、ねぇ」

 窓の外を眺めていると不快な気配を感じた。この不快な気配はアイツしかいない。

「また、くだらないことを考えているな」

 いつの間にか桔梗が部屋の中にいた。私たちに壁などあってないようなものだし、驚くほどのことではない。ただ、こいつに入られるのは不愉快だった。

「ゴミのくせにうるさいわね。許可なく入ってこないでくれる?」
「いちいちうるさいな。好きで来るわけないだろう。主からの命だ」

 いつもこんな調子だからムカつく。何が主だよ。お前はただの社畜だろうに。お前には自分の意思がないのかよ、と言いたくなる。やりたいことも何もないとか、あり得ないでしょう。アヤメですらわりと好き勝手にやっているのに。つまらなくて、何の面白みもない男。好みではないし、眼中にもない。目にすら入れたくない。

「『夢は終わりだ。自分で幕を引け』――お前のくだらない遊びもここまでだな」
「……あっそう」

 桔梗の言葉で私の未来は確定した。いずれ来ると、分かっていても苛立つ自分がいた。誰だって、最高に楽しんでいる所へ水を差されたら、不機嫌にもなる。

「最後まで偉そうね。引きこもりのくせに」
「愚弄は許さん。誰のおかげで、この世界に存在することを許され、自由気ままに振舞えたと思っている」
「はいはい。盲目信者には分かんないでしょうね。これが自由? 笑わせないで。こっちは嫌々、協力してやってんのよ。あんな状況だったらそこまで考えないし、誰でも答えるでしょ。こっちは被害者よ」

 頼まれたからやっている。私の命は姫と繋がっているし、それくらいは弁えている。逆にそれが無ければ、付き合う義理もない。縛られず自由にやっていた。これでも結構抑えていたのだけれど。あぁどいつもこいつもうるさいわね。クズのくせに。

「あの人は強制などしない。お前が勝手に選んだだけだ。嫌だったら、そのままくたばっていればよかったんだ」
「あんなのがいなければ普通にくたばってたっての。認められない結末を少しでも変えたいと思うのは当たり前。けど、アイツの手下になった覚えは無い。私は私の思い描く理想を貫いて終わるだけ」

 偉そうにしているくせに、自分では何もできない哀れな姫。自分が動けば世界は終わる――本気でそう思っていたから笑える。そんな簡単に世界が壊れるわけがない。私が笑い飛ばしても、アイツは気にしていなかった。
 そして、私はその態度が気に喰わなかったから暴れてやった。その時に割って入ったのは桔梗だった。私より長くいるみたいだけど、話を聞いてみれば、社会のレールから外れただけの間抜けとしか思えなかった。何がどうあって忠誠を誓っているのかは知らないし興味ないけど、私は直観でコイツとは絶対に相容れないと思った。
 
「調子に乗っていると、足を掬われるぞ」
「さっさと、消えなさいよ。目障りだわ。自分が正しいと思ってんじゃねぇよ。お前は悪だよ。単純なことも分からないんだから、お姫様から疎まれているんだよ」
「……ッ」

 桔梗は苦虫を噛み潰したような表情で消えていった。ざまぁみろ。せいせいするわ。アイツの考え方になぞらえると、私にはいつか天罰が下るのだろうけど、喰らうつもりは毛頭ない。だって、全て上手くいくようにしているもの。

「あーあ。白けちゃったし。気分転換に、遊んでこよーっと」

 せめて終わるまでは、何も考えず遊んだっていいでしょう。
 ねぇ、貴方もそう思わない?