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 変な空魔が現れようが、次の日はやってくる。空魔の被害が出たとしても、関係ない人間には何の影響も及ぼさない。いつものように学校へ行けば、何も知らないクラスメイトたちが騒いでいた。
 今日も何事も無く終わるかと思ったら、昼休みになってあすなが久々に話しかけてきた。行方不明の友人の相談を請け負って以来、軽い挨拶は交わしていたが、ゆっくりと話す機会はなかった気がする。あすなは二人きりで話したいと言っていたので、あまり人の来ない東棟の階段の踊り場まで行った。踊り場の窓からは人のいないグラウンドが見える。気まずくなるかと思ったら、あすなはいつものように、新作のスイーツやファッションの話題を切り出した。そんなあすなの様子に私は内心、安堵していた。もうあの事件のことは、吹っ切れたかと思っていた。
 しかし、友人を亡くした悲しみは簡単に割り切れるはずがなかった。あすなはひとしきり話した後、手を合わせて頭を下げた。

「紫苑。ずっと話せなくてごめん! 相談もしてもらったのに、あの後、変に避けちゃって」
「それは構わないんだけど。あすなの方こそ大丈夫なの?」
「未だに追いつかないってーか……信じられない。こういうのってもっと、遠い出来事かと思ってたんだけどなぁ。あの時止めてれば、って思っちゃうよ」

 慰めるべきなのか、肯定するべきなのか。どれをやっても、今のあすなに効果はないだろう。私は何も口出さす、あすなの話に耳を傾けた。

「詳しい話は教えてもらえなかったけど、通り魔に殺されたって。あり得ないでしょ。途中まで普通に、話してたのに……」

 空魔絡みの事件は研究所によって隠蔽されることが多い。隠蔽に関しては星影財閥の力によるところが強く、国家権力にも介入しているらしい。風の噂で聞いた話だけど空魔化した場合、死体は残らないのでフェイクを用意すると聞いたことがある。混乱を防ぐという名目でやりたい放題だと思う。
 けど、真実を教えたとしても死んだ人は帰ってこない。空魔を実際に見なければ信じられない話だと思う。無駄に刺激しないほうがいいのかもしれない。どちらにせよ、知ったところでいいことはなにも無い。それだけは確かだ。

「最近行方不明者とか、殺人事件とか多いっていうけど、明らかに何かおかしいって」

 貴方の友人は空魔になってしまったので殺しました――など、言えるわけがなかった。あすなの友人に限らず、空魔になってしまった人間を多く倒してきた。人に害をなす前に殺すしかなかった。とはいえ、どんな言い訳をしたって、最後に命を奪ったのは私だ。そのことを知ってしまったら、こんな風に話すことは出来ないだろうな、と心のどこかで思っていた。

「……あすなはその子の分まで、生きなよ。普通に勉強して、大学へ行って、色んな人に出会って」
「紫苑……」
「気の利いたことは言えないけど……あすなに出来ることだと思う」

 空魔のことは私が何とかする。だから、あすなには笑顔で普通の生活を送ってほしい。彼女が悲しむ必要はない。

「ごめん。本当にごめん。暗いことばっか言って、困るよね」
「あすなが楽になるなら、愚痴とか普通の話でも何でも聞くから」
「やっぱ紫苑は最高だよぅ」

 あすなが涙声で抱き着いてきた。私もあすなの背中に腕を回した。あすなが落ち着くまで私は抱きとめていた。あんまりこういう行為はしたことがないから、少し気恥しい。
 しばらくして、あすなは落ち着いたようで涙をぬぐった。

「前向かないとね……紫苑。これからもよろしくね!」
「……こちらこそ」

 私は差し出された手を私は強く握る。私はしっかりとあすなの体温を感じ取った。窓辺の日差しに照らされたあすなの笑顔は、これまでにないほど眩しく、輝いて見えた。