「色々考えてみた。反省すべきところばかりで、具体的な改善案は出てない。ごめん」
「……突然どうしたんだ?」
葵は不思議なものを見たような、表情で問いかけた。私自身、何を言っているのか正直分かっていない。独り言に近いものだと思う。全ては今日の巡回が終わろうとしていたときの話だ。
「私の行動について散々指摘してきたじゃない。思うところがあったから、何となく考えていたの」
「真剣に考えてほしいんだけどな」
「考えてるよ。考えたうえで、私は今の自分を変えたいかと言われたら、そうでもない。というよりは、出来ないと言ったほうが正しいかも。そうでもしないと、私は多分ついていけないから」
葵は否定しなかった。葵は私の実力を分かっていると思う。痛みを感じないからこそ無茶苦茶な行いが出来る。結果として、空魔を倒すことに繋がっている。ただし、毎回成功するわけでもなく、失敗することもある。失敗するといっても、命までは落としていないからそこは運の問題もあるだろう。どのみち、運任せなのはどうにかするべきだと考えていた。と、考えるのはいいがどうすればいいものやら。
「自分を変えられないなら、ハーツを変えたらどうだ?」
葵の提案は武器を変えてみろというものだった。そんなこと微塵も思わなかったから、少し呆気にとられた。別に同じ武器を使い続けなければいけないという規則は無いので可能だが、今更変えるのも何だか違う気がした。
ちなみにハーツは使う者の心次第で力や形状などが変化するらしい。空魔の核を埋め込んでいるせいなのかは不明だが、頑張ればビームとかも出るらしい。どこまで追い詰められたらそんなものを出せるのだろう。
目指すならそっちの力を得た方がいいのかもしれない。武器を変えるつもりはさらさらない。
「これが一番しっくりくるから却下」
「言ってみただけだ。お前の場合……どっちかっていうと気持ちの問題な気がするからな」
「……気持ち、か」
考えようとした瞬間、嫌な気配がした。今夜は空魔がいないと安堵していたのも束の間、空魔は一切の慈悲もなく襲い掛かってくる。
「はあっ!」
私が空魔の動きを止めた後、葵が瞬時に一刀両断する。核も残らず空魔は灰と化した。
「いつもこれくらいだったらいいんだけど」
「そうはいかないから、忠告してるんだ」
いつものように説教が始まるかと思っていたが、今夜はそうはならなかった。
なぜなら――
「うわぁ。面白いの見ちゃった。あはは! 君たちすごいねぇ」
そこには楽しそうに笑う少年がいた。猫耳風のニット帽を被り、金色の双眸がこちらを見つめる。暗闇に紛れいつから見ていたのか。空魔の存在など意に介さず、私たちに興味津々だった。空魔の存在を把握しているのか、とぼけた反応に葵も私も困惑していた。
一般人に見られて困るものでもないが、対応が面倒くさい。こういった時は、安全な場所まで送り届けるか、人から空魔を遠ざけるかの二択になる。
しかし、今回は戦闘終了後である。安全は確保されているし、送り届ける必要もない。
ちなみに空魔の存在自体は認められているので情報統制の必要はない。巷では一種の都市伝説と化しているらしい。
目の前にいる少年は恐怖することもなく、空魔に興味津々だった。その場から離れてくれた方がよっぽど有難いのだが、どうしたものか。
「面白くもなんともないけどな」
「だって、不思議っぽいじゃん。あんなの、めったに見られないでしょ」
一歩間違えれば、殺されるかもしれない立場である自覚は無さそうだった。最近はSNSに上げる人もいるし、珍しくはないのだが、どこか腑に落ちない。そういった輩とはどこか違う雰囲気がある。直観だが間違いなく厄介な人間だ。
「ねぇ、ああいうのって、夜に出るんでしょ。夜に来たら会えるのかな?」
「命が惜しければ、馬鹿なことを考えるのはやめるんだな」
「別に惜しくないならいいよね?」
「そういうことを言ってるんじゃ……」
「なんてね。どちらかというと、アレより君たちの方が興味あるんだよね。連絡先交換しない?」
「断る。というか、何なんだお前は……」
葵がすごく押されている。マイペースな人に弱いのか。ややこしくなりそうなので、一切口を挟まないことにした。というか、さっさと切り上げればいいのに。葵がリーダーだから勝手な行動も出来ない。別に帰ってもいいけど、後々いろいろ言われそうだ。どうしよう。
終わらなさそうだし、二人の会話でも聞いてよう。
「僕は柘榴(ざくろ)。君たちの良き隣人さ」
「酔っているなら帰れ」
「目は覚めてるよ。なんなら正気だけどなー」
葵もわざわざ付き合う義理もないだろうに、どうしたことだろう。無視して切り上げればいいのに。私が首を傾げていると、少年と目が合った。少年は悪意も感じさせず、無邪気に笑う。
「そういえば、君たちは自己紹介してないじゃないか。僕だけなんてフェアじゃないよ」
「え、あぁ。俺は葵」
「よろしくね葵!」
柘榴はいつの間にか葵の手を握っていた。葵は狐につままれたような顔をして、固まっている。というか、自然に自己紹介までしてるけど、どうかしてしまったのか。
「……なんで普通に名乗ってるのよ」
思いっきり流されている葵に思わず突っ込みを入れてしまう。私に指摘され葵も気づいたのか、動揺していた。
「って、違うんだ。これは……! 紫苑、どうにかしてくれ……」
「ここで私に振らないでほしいんだけど」
「へー紫苑っていうんだ。よろしくねー」
柘榴が手を差し出してきたが、私はそれに応じなかった。
「貴方を相手にしている暇は無いの」
クラスメイトだったらここまでしなかっただろうけど、任務中で知り合いでもなかったら論外である。柘榴は私の態度に腹を立てる様子もなかったが、少し寂しそうな表情を見せた。
「そっか。残念だなぁ」
「話はそれで終わり? じゃあ、さよなら」
無理やり切り上げて、葵と私はその場から消えた。もちろん、柘榴は追ってこない。追ってきたら恐怖以外の何物でもないけど。
研究所まで来たところで私たちは二人そろって大きなため息をついた。
「面目ない……」
「謝らなくていいよ。いつも私の方が迷惑かけてるから。それより、らしくなかったね」
「らしくない、か。自分でも、どうかしてたと思う。断る気になれなかったというか、親しみすら感じていた気がする。初対面なのにおかしいよな」
「……そういうときもあるんじゃない?」
フレンドリーというか、初対面の相手だろうが、誰とでもすぐ仲良くなれる人間は存在するだろう。でも、柘榴に関しては違うような気がした。腹の底が見えない、深い闇を見ているような――何とも言えない不思議な感情を抱いていた。相手について何も知らない私があれこれ言うのは、気が引けるので葵には言わなかった。
「さっきのは報告するの?」
「念のためにするつもりだ。他のところにも出たら面倒だからな」
「……そう」
ただの好奇心旺盛な一般人に絡まれた――程度で済めばいいのだが。