それからあすなと色んな店を回って夕方頃に解散した。人ごみの中を綺麗に縫って歩く。こんなにも町は賑わっているのに、夜になると空魔が出るのだ。それだけここは複雑な感情を持った人間が多いのだろうと思っていたのだが、実際のところどうなのだろう。
色々考えながら進んでいたら、いつの間にか研究所の近くまで来ていた。
「あれ、紫苑も出かけていたんだ」
「そっちこそ」
研究所付近で珍しく声をかけられ少し驚いた。声の主を確認してみると、私と同じエンプティに所属する少年――空木霞(うつろぎ かすみ)だった。霞は茉莉花と組んでいる。いつも暴走しがちな茉莉花を諫めているらしい。性格は穏やかで愛想がいい。あと、茉莉花曰く学校では女子に人気があるらしい。武器は戦輪。自分の手足のように器用に操って戦う。そして私に声をかけてくる、かなり貴重な人種でもあった。私のことは気にしていないようだった。というよりは、興味ないだけかもしれないが。
「手続きは面倒だけど、息抜きは大事だからね」
学校から帰ってきた後に、外出する際には申請書が必要なので隊員はあまり外に出たがらない。申請自体は簡単に通るのだが、目的と帰宅予定時間など詳細を書かなくてはいけないので、人によってはかなり面倒だろう。予定している帰宅時間を過ぎれば、何があったのか詳細に報告しなくてはいけない。何か買いたいとかあれば、研究所内にコンビニなどがあるのでそこで買い物したり、戦闘の帰りにこっそり寄り道したりして調達することが多い。こんな場所なので必要以上にクラスメイトと深く関わるのを避ける人もいれば、葵みたいにクラスメイトと頻繁に外出する者もいる。気持ち的には前者なのだが、遊びに行っている時点で何ともいえない。
「確かにね。私は外に出ると疲れるけど」
「その割には楽しそうに見えたけどね」
「……見てたの?」
「偶然、街中で見かけたんだ。声はかけなかったよ。邪魔したら悪いし」
霞は申し訳なさそうに謝る。全然気づかなかった。霞も街中で遊んでいたのだろうか。そこまで羽目は外していないので、恥ずかしいという気持ちはないが、なんとも言えない気分だった。
「楽しそうな友達だね」
霞はどこまで見ていたのだろう。結構あすなは身振り手振りが激しいから、その瞬間を見ていたのか。楽しそうという印象は間違っていないと思う。けれども、友達かと言われるとイマイチ自信が持てない。
「楽しいよ。友達かは……分かんないけど」
「放課後に遊ぶような仲だったら、大体友達じゃないの?」
霞は不思議そうに問いかける。自分でも判然としない問いの答え。
「そう言われると、そうなんだけど。向こうは向こうで、他のクラスメイトと仲がいいから分からない」
「なるほどね。向こうはただ興味本位とか同情で話しかけているだけ……かもしれないってこと?」
「そんな感じ。珍しい生き物をつついて、反応を楽しむみたいな。自分でもひねくれてるとは思うんだけど」
ほんの戯れ。ただし、そこに友愛という言葉はなく、飽きたら終わってしまうような関係。
あすなのことは尊敬しているが、一方であすなが私に話しかけてくる理由が見つからない。だからこそ、私は疑問に思ってしまうのだ。上辺だけの関係でも構わないのだが、そうなると私的には友達という言葉が使いにくくなる。面倒くさいと我ながら思う。
霞は私の悪意に満ちた考えに、呆れもせず真面目に答えてくれた。
「あれこれ考えも、最終的には自分がどう思っているか、どうありたいかが大事なんじゃないかなぁ」
私がどう思っているか――と聞かれたら、友達でいてほしいと思っている。こんな私に話しかけてくれたのだから、何か裏があったとしても私はあすなを友達だと思う。私があすなと遊んでいたとき、楽しんでいたときは間違いなく本物だったから。
「私は……友達だと思いたい」
「じゃ、それでいいんじゃない」
「向こうがそう思ってなかったら、虚しいね」
虚しいと言いつつも、心ではどうも思っていなかった。それならそれでいいし、どうでもいいとさえ思っている。友達か友達じゃないのか気にしているくせに、どうして心はこんなにも平坦なのだろう。たまに自分が分からなくなる。
「相手の心とか分からなくて当然だよ。人はどうやったって、心を見れない。もっと前向きにいこうよ」
「もしも見えたら……」
「その時はその時だね。虚しさを受け入れるか、ぶつかるか。どっちがいいんだろうね」
あすなの心を見る日なんて来ないだろうけど、もしも彼女の中の私はどんなふうに映っているのかは気になる。
「まぁ、その結果空魔みたいに暴れられても困るけどね」
「確かに」
友達の定義から空魔の話になった。空魔の話題といえばやはり、あの話題になるのだろう。
「それにしても、最近物騒だね。新手の空魔とか嫌になるよ」
霞もやはり気になるのだろう。何か収穫があればいいが、正直進んで遭遇はしたくない相手だった。今でもあの時の、得体の知れない感覚は覚えている。嫌な気持ちではないものの、それが逆に不気味だった。
「空魔なのかも分からないし、敵は敵だろうけど」
敵というのは、自分で言ってたことだ。
しかし、殺意は感じなかった。触ってきたけど、危害を与えるものではなかった。そこが謎なのだ。空魔だったら理性もなく襲ってくるはずである。
「茉莉花がやたら意気込んでいたよ。見たら殺すって」
「相変わらずだね。空回りしないといいけど」
「大丈夫。いつも空回っているから」
あはは、と笑う霞。色々と大丈夫なのだろうか。聞いていて少し心配になるが、霞がいればそこまで暴走することはないだろう。茉莉花はあまり霞のことをよく思っていないようだが、上手い具合に釣り合いが取れている気がする。
「そういえば葵が言ってたよ。紫苑が無茶ばかりするって」
「割と聞いてる方だと思うけど、多分」
茉莉花たちのことをとやかく言える立場ではないことを、瞬時に思い出させる有難い霞の報告。
なりふり構わず攻撃する姿勢に文句があるのだろうか。葵が気にする気持ちも分かるが、私もギリギリなのだ。心に余裕が持てればいいのだが。特訓でもするべきか……うーん。
「葵は責任感強いからね。あまり心労かけさせない方がいいと思うよ」
「努力する」
「まぁ、それだけ。部屋でため息ばかりついてたからね。ちょっとね」
「……どちらにも申し訳ない」
こう言われている以上、変わらないといけない。なるべく努力するつもりだが、如何せん痛みがないことに慣れすぎてしまった。攻撃を受けても、何も感じないどころか気づかないときもある。それで死んでしまったら元も子もない。そういうことも防ぐために、見直すべきだとは思っていた。
「ゆっくり考えてみる」
「頑張って」
霞と別れ、私は一人寮へ戻っていく。戻ったとしても、考えなくてはいけないことが多く、休める気がしなかった。