「おっ。レガリアの力が消えたね。やっとこの島から出られるよー長かったなぁ」
「そうか。奴も遂に終わったか……」
レガリアが倒された直後のディユー島――マリエルは一瞬にして状況を理解していた。彼女はレガリアよりも長い年月を生きてきた魔法使いだ。この世界の仕組みもある程度理解していた。ユラギの存在も認知しており、以前に不老不死を解いてもらう方法も聞いたことがあるがかなり難題のようでそれこそ願いを叶える力を利用しなくてはいけないようだった。グラスの器になり得ない以上は、結局不可能という結果に落ち着いた。今となってはそこまで悲観していないものの、方法があるなら知りたいという気持ちに変わりはない。
「どーしよっかー? おいおい、バドルはどうすんの?」
「いきなりなんだよ。釣りの最中だぞ話しかけてくんな」
「レガリアの結界が無くなったから、外に出られるよ。私達はしばらくここにいるけど、君はどうすんの?」
バドルはしばらくじっとをしていたが、マリエルの話の内容を理解したのかおもむろに立ち上がる。
「……本当か!?」
バドルは釣り竿を捨てて、迫真の表情でマリエルの肩に手を置いて問いかける。
「レガリアが死んだからね。結界もなくなるわけだ。この島とのサバイバル生活ともおさらば出来るよ」
「…………いきなりすぎて、何も考えてねぇよ。お前らはここにいるんだろ? 俺は魔法使えないし、結局自力じゃ出られねぇっての」
「お前を送り出すことくらいは出来る。レガリアの結界が無くなった以上、転移を邪魔するものはない」
「そゆことー晴れて私達は自由の身ってことね! いやぁ、一時はどうなることかと思ったけど、ルーンちゃん達が上手くやってくれてよかったわ」
ユラギの力を得たレガリアを倒すには、ユラギに認められた存在にしか出来ない。今風に言えば、グラスの器となる者にしか不可能なのだ。そもそも、ユラギがレガリアに力を貸さなければこんなことにはなっていなかったのだが、一体どういう了見だったのだろうか――謎のまま全てが終わってしまった。あの性格だと大方、馬鹿に物凄い力を与えたらどうなるかぐらいの実験だろうとマリエルは考えていた。
「……この結果に辿り着くのをどこまで読んでいた?」
「私は最初から信じてただけ。ルーンちゃんがアホみたいなことするようだったら、始末するつもりだったけどね」
島でルーンと相対したとき、何を考えているか見極めようとした。ルーンが諦めているようなら、殺してしまおうかと思っていたほどだ。ルーンと会話して、その考えは杞憂だったものの少し不安定だったので釘を刺した。レガリアに造られたということも知っているので、そこまで肩入れは出来なかったが、自分の道を貫けたようで喜ばしい限りだ。
マリエルと会話していると、立っていたバドルは座り込んでしまった。力が抜けたかのように、だらんと足を投げ出した。
「なぁ、俺もしばらくここにいていいか。なんか、怖ェんだよ……人のいる場所に戻るのが。戻りたいのに、戻りたくねぇんだよ。意味分かんねぇの。ハハッ……」
「ここには煩わしいものがないからねぇ。気持ちは分かるよ。この生活から抜けて、街へ出たとしてもきっと面倒になる――私自身何回も経験したからね」
「お前がここにいたいのなら、私は何も言わん。好きにすればいい」
マリエル達にとっては些細なことだった。ここで長い間生活していれば慣れてくるものだ。むしろ、人がいなくて清々するところもある。食事には困らないし、住居にも困らない。娯楽は別になくてもいいので、のんびり暮らしたい者にとっては楽園にも等しいだろう。
「でも、ずっとここにいても進めないからな。いつかは出てくだろうよ。そんときは、また頼むわ」
「オッケーじゃあ、私達の食料調達よろしくねー!」
「……あっ! おいさりげなく押し付けてんじゃねーよ! いい加減自分でとって来いや!!」
マリエルとサリーヌはバドルを残して一目散に走りだした。使えるものはとことん使う――島の常識である。
「やっぱこの島嫌いじゃないわ! 第二の故郷的なやつだね。サリーはどう?」
「悪くは無い。退屈しないさ……お前のおかげでな」
「私も! サリーがいてくれてよかった! 終わりまで一緒に走り続けようぜ!」
「……走るのは苦手だ」
いつまでも留まっているわけにはいかない。人はいつかは自分の足で踏み出さなくてはいけない。それでも、一時休まる時間ぐらいはあってもいいだろう――マリエルは今のこの瞬間を楽しむのに全力を注ぎ続けるのであった。