クロエの方から壁を壊してくれたようで、ミレドとメロディアはようやくラパン達と合流出来た。
しかし、状況はそこまで芳しくはなかった。ラパンとレインは蔦のようなものに巻きつかれて身動きが取れないようであった。ラパンの強化魔法も通じないとなると、かなり特殊な術をかけられているようであった。ミレドは楽しそうなことやっているなぁ、と思いながらラパンへ手を振った。
「やぁ~ラパン。なんか楽しそうなことやってるねぇ~」
「……覚えとけよ。つーかアンタらいきなり現れて今までどこにいたの!?」
ラパンからしたら、いきなりミレドが現れたように見えたのだろう。驚くのも無理はない。完璧な防壁によって封じられていたのだから。
「キミ達の視点から奥の方にいたんだよねぇ~」
「クロエとアルノが背中合わせのように見えていわ。そして、クロエの向こう側にいる貴方達の戦闘も見ていた」
「そういうことか。分断されたのは俺達だけで、クロエとアルノはずっと一緒に戦っていたようなものなのか……」
レインが呟くと、否定するようにクロエが割って入ってくる。どうにも黙っていられないようだった。
「……別に一緒に戦ってはないわよ。ちゃんと個別で対応してたでしょ。こいつと一緒に戦うとかあり得ないから」
「そこまで言う必要ある?」
「言っておかないと、誤解されるでしょ」
「別にどうでもいいんだが……それで、お前ら二人揃えばパワーアップとかするんじゃねぇの?」
「期待しているところ、悪いけどぉ。アタシにはステッキがないし、どうしようもないからぁ~」
クロエが横目でアルノを見ると、アルノは静かに頷いた。何も言わなくても分かるぐらいの信頼関係はあるようだが、どうにも歪な関係に見える。だからこそ、この先に起こる展開もミレドとメロディアは予測していた。
「アルノが全部引き受けてくれるってさぁ。というわけで、アルノよろしくねぇ~」
クロエはアルノを残してその場から消えていった。その姿を見たラパン達は呆然としていた。フォルテは舌打ちをする。クロエの性格が気に食わないようであった。
「あいつマジで性格終わってんなぁ。お前はそんなんでいいのかよ」
「関係ない。クロエがやれというならやるだけ」
アルノはフォルテの動きを封じた。フォルテの足元は固定され、身動きが取れなくなる。次元魔法で抜けようとしたようだが、魔法を無効化する術もかけられているようで、フォルテの移動は阻害された。こうなってしまっては、どうしようもない。
「拘束術に反魔法術かぁ~なかなかやるねぇ~」
クロエがアルノを一人で、残したということは形勢逆転出来るほど力を持ち合わせているということである。クロエの力など無くても、アルノは一人で始末出来ると踏んだのだ。でなければ、こんなことしないだろう。クロエなりにアルノを信頼しているのかもしれない。
「魔法が使えねぇ恐怖再来! ちくしょう」
そのままフォルテもラパン達と同じように蔦に巻かれ、上へ吊り上げられていく。次元魔法を使おうにも魔法自体を封じられている為、抜け出すことは不可能なようだ。
「めちゃくちゃ器用だねぇ。色んな魔術を駆使するのって、調整とか大変なのに寸分狂わず最大限の効果を発揮してるのすごいねぇ~こんなのボク以外に見たことないよ~」
「自画自賛してないで、どうにかしなさいよ。まとめて殺す計画も崩壊したんだから」
「慌てない、慌てない。結果は時間の流れでしか、現れないからねぇ~」
ミレドは当初、クロエを巻き添えにしてアルノを倒そうとしていた。その為には、まずラパン達を隔てる壁を壊す必要があった。壁はどちらかの均衡が崩れれば崩壊するだろうと思い、向こう側の戦況を見ながら攻撃を調整していた。アルノの体勢を崩せば楽だったのだが、実際はそうもいかないぐらい隙の無い相手で難しかった。先にクロエの方がギブアップしたようなので、計画は破綻してしまった。だが、ミレドは微塵も気にしていなかった。そもそも、あの計画自体はおまけのようなものだ。
「何があろうとも結果は変わらない」
「果たしてどうだろうねぇ~」
アルノはミレドの言葉に一切耳を貸さず、攻撃の手を緩めなかった。ミレドは自身の使役する黒い触手で防いでいた。今、出現している黒い触手達は魔法や魔術の影響を受けない特殊な仕様である。魔法を無効化する使い魔は負担が大きいのであまり使用しないが、アルノ相手に手を抜いたらこちらがやられてしまう。
「おにーさんは魔術師としてかなり優秀だし、完璧に近いと思うよぉ。でもさぁ……あのおねーさんは、どうなんだろうねぇ? 魔具も失って、足手まといだよねぇ~狙うには一番だ」
「……お前ッ」
何かを察したアルノが慌てて後ろを振り向くと、そこにはうつ伏せになって苦しんでいるクロエの姿があった。アルノにとっては予想外のようで、全てを投げ出してクロエに駆け寄っていった。当然、術式は崩壊していく。蔦がいきなり消えたので、ラパンとフォルテは受け身をとる暇もなく地面に激突したが、レインは普通に着地していた。
「いったぁ……何? 最悪……」
「なんかアイツ、この世の終わりみたいな顔してるけど、なんかあったのか?」
必死にクロエへ呼びかけている姿を見てフォルテはメロディアに問いかける。ある意味、アルノにとっては世界の終わりに等しいのかもしれない。
「……終わったのよ。全て、最初からなるようにしかならなかったってこと」
「ラパン達に言っても良く分かんないだろうけど、壁を攻撃したときに少し弄らせてもらったんだよねぇ~障壁を解いたときに発動するような術なんだけど、即席のせいか即効性はなかったけどさぁ」
アルノの注意を引き付けているときに、ミレドはラパン達を隔てる壁に毒のようなものを仕込んでいた。本来なら、クロエを巻き込んで殺したほうが面白かったのだが、成功する確率は低いと見越していたので、失敗したときの保険用に仕込んでおいた。
正直、最初からアルノの魔術を見て、真正面から相手をするよりは搦め手を使った方がやりやすい相手だとは思っていた。アルノがクロエに執着しているのは分かっていたので、それを利用するだけだ。
「クロエはあのまま放って置けば死ぬでしょうね」
「空間の崩壊も早まっているし、時間の問題でしょ~」
わざとらしく大きな声でミレドは言う。アルノがこの場で取るべき選択肢は一つしかない。彼がクロエを失いたくないと思っているのなら、答えは決まっている。
「俺の負けでいい。その代わり、クロエにかけた術を解け……!」