「そういえば、メロディア達はそもそも何しに来たのかしら」
二人がいなくなってから、ヴェーダが呟く。今更過ぎたが、見過ごすことは出来なかった。
「そういえば、セゾンは殿下から「邪魔しろ」って言われてたね」
「その割には、そこまで食い下がらなかったわね。封印が解かれてもいいのかしら?」
「それはないのでは? 封印を解いたら世界が災厄に飲まれてしまうんですよ。兄様が見過ごすはずがありません」
「でも、あっさり帰っていったわ。きな臭いわね。どいつもこいつも……」
ヴェーダはルーンに意味深な視線を投げた。ルーンはヴェーダの視線など気にしていない様子である。ヴェーダの中で、一番怪しいのはこの魔法使いだった。何を考えているか分からない。彼に感じる魔力は、昔の知り合いを彷彿とさせるものが混じっているのも大きな要因だ。今のところ何もしないので泳がせている状態である。
「……邪魔っていうなら、単純に時間稼ぎじゃないの? 何をしようとしているのかは分からないけどさ」
「おそらく、その可能性が高いね」
ラパンは把握していないことも多いのに、与えられた情報から推測をしているようだった。案外、頭の回転が速いのかもしれない。
「それだと、今後の動きに注意しないといけないわね」
「ここで考えていても仕方ありません。先に封印を解きませんか?」
どれだけ考えたところで相手の考えなど分かるわけがない。レイラの言う通り、先に進んだほうが良さそうだった。昔のことを思い出して、神経質になり過ぎているのかもしれない。
「レイラの言う通りね。さっさと解いて次へ進みましょう」
封印は山頂から外れた場所にあるようなので、しばらく道のりがあった。それから、しばらくして急にラパンが呟く。
「……私は上まで行く。もう、結界はないわけだし私はいなくてもいいよね」
ルメイユ山は迷いを持った者を導くとされている。山頂には封印の祭壇とは別に、登山者が祈りを捧げる礼拝堂があるらしい。宗教関係なく、全ての生きとし生けるものが祈りを捧げられるようになっていると、ルーンが言っていた気がする。ヴェーダはよく知らないが、そこに意味があるのか疑問に思っていた。
「礼拝堂なら、そっちの道から行けるよ」
「……どうも」
ラパンはぴょんぴょんと、あっという間に礼拝堂へ向かっていった。ヴェーダはそんなラパンの姿を見て、ある考えが浮かんだ。
「私もお祓いを礼拝堂へ兼ねて行きたいわね」
「え、祓われる側じゃないの?」
「は? ぶっ殺すぞ」
ヴェーダは思わず、素で言ってしまった。これでは礼拝堂への道が遠のいてしまう。
「おほん。だって有名な場所なんでしょ。どんなものか見てみたいじゃない」
「最後まで観光気分か。そんな寄り道してる場合じゃないでしょ。観光地だからこそ人が来たら面倒になる」
ルーンは礼拝堂へ行くのに消極的だった。それもそうだ。あんな出来事があれば、手早く用事を済ませて立ち去りたいだろう。人払いの結界はもう張られてないので、人目に付く可能性も高い。
レイラはというと、宙へ視線を泳がせていた。どうやら、礼拝堂に興味がある様子だ。
「……実は私も少し興味があります。出来れば行ってみたいです。出来ればですが……」
さっさと封印を解きたいであろう、ルーンの機嫌をうかがっているようだった。
これなら、いけるかもしれない――ヴェーダは強引に推し進める。
「貴方だけ残ればいいじゃない。私は宣戦布告に行くわよ!」
本音を言えば、ヴェーダは礼拝堂の存在そのものが気になっていた。本当に神がいるのか――この目で確かめたかった。レイラが行きたそうにしていたので、ちょうどよかったと思っていた。
レイラとヴェーダの様子を見たルーンは諦めて、礼拝堂のほうへ歩き出した。
「……物騒な輩が余計なことをしないように見張らないとねぇー」
「やったぁ。何をお願いしようかなぁ。この恩は一生忘れません!」
「えーそこまで……? 忘れてもいいけど、面白いものなんて無いと思うよ」
「それは私が見て決めますから」
レイラは楽しそうにはしゃいでいた。レイラも初めて行く場所のようで興奮しているのかもしれない。城からほとんど出たことがないと言っていたので、新鮮な気持ちで世界を見ているのだろう。こうしてみると、無邪気な少女で世界を壊すとは思えないお姫様だ。
「……私には辛辣だったのに。レイラには甘いわね」
「優しくされたいの?」
「善意の欠片もなさそうだしお断りよ。何を要求されるか分からないもの」
「まぁ、彼女には悪いことしてるからね。少しくらいは大目に見るさ」
「この先、何もかも無くなるかもしれないから?」
「あぁ……」
世界を壊した後――破壊の先にどのような世界が広がるのか、誰にも分かるはずがなかった。