散々レイラ達を苦しめた術はあっけなく破れ、元いた場所に戻されることなく、順調に進んでいる。
術はレイラ達だけにかけられており、ラパンにはかけられていないようだ。道に迷うように設定されてあるため、術に掛かっていないと思われるラパンを先頭にして術をかいくぐった。山は澄んだ空気が漂っており、疲れ切った心身を癒してくれているようだった。遅れた分を取り戻すべくレイラ達はひたすら、山頂に向かって歩みを進めた。

「私達、今進んでいますよ。感動です」
「そこまで感動すること?」
「そもそも姫様は同じ場所を回っていることに、気づいてなかったよね?」
「おかしいことぐらいは気付いてましたよ。とにかく進んでいることに感動しているんです。そういえばラパンは、結構体力がありますね。体を鍛えていたのでしょうか?」
「……それなりに」

 ラパンはあまり感情を見せずに受け答えをする。まだまだ、心を開くには時間がかかりそうだった。

「己を鍛えているなんてすごいです。私は城の中で遊んだり、本を読んだりするだけだったので……」
「城……?」
「ああ、そういえば言っていませんでしたね。私はこれでも姫でして……といっても、過去の話ですが」
「姫に見えない。本当?」
「申し訳ないのですが、ちょっと気にしている部分なので、深く聞かないでください」
「……何かごめんなさい」

 気まずそうにラパンが謝る。意外と素直なのかもしれない。レイラは少しだけ可愛く思った。

「気にしないでください、そもそも私は冒険心に溢れた姫ではありませんから」
「どっちかっていうと、構図的に悪い魔法使いに騙されてる姫みたい」
「騙されているように見えますかー……これでも、利用されている自覚あるんですよ」
「そうなの?」
「先程、私が姫だって話しましたね。始まりの話になります。少し長くなりますが――」

 レイラは自分の身に起きたことを語った。兄に裏切られ、生贄にされたこと――その先の選択肢。ルーンに同意してその手を取ったのは変えようのない事実だった。助けてもらった恩は返すつもりだ。
 
「結局弱みに付け込んでるってこと? 最低な魔法使いじゃない。すごい力があるなら、こんなヤツの言うこと聞かなくても」
「出会ったばかりなのに辛辣過ぎない? ま、事実だけどさ」

 ルーンは苦笑しつつも否定はしなかった。レイラを利用して世界を壊そうとしているのだから間違ってはいない。
 けれども、それ以上にルーンはレイラには見せていない部分があり、レイラは複雑な面持ちになっていた。

「最終的に受け入れているんですから、私も最低な人間です」

 最初は成り行きだったが、今ではルーンの願いの先を知りたかった。そのためには歩み続けるしかない。レイラはそこまでは言わなかった。

「……強いんだね」

 ラパンは笑っていたが、どこか辛そうに見えた。ラパンがどのような人生を送ってきたのかは分からないが、きっと苦しい思いをしてきたのは間違いない。

「私は強くないですよ。目的があるから、今は前に進んでいます」
「……目的」
「あぁでも、目的のために頑張り過ぎても疲れるだけですから。もしかすると、気が変わって途中でもしかしたら放り投げるかもしれません」
「ちょっと、姫様には最後まで付いてきてくれないと困るよー」
「冗談です。ルーンの力になりたいという気持ちは、変わりませんから。そうでなきゃ、今頃付いて来ていませんし、何なら死を選んでます」

 レイラは信じられないからと言って、協力をしないという選択肢を取らなかった。ルーンの願いを叶えたいという気持ちの方が強いからである。相手がどう思っていても、そうしたいと思ったからそうする。自分が思ったようにやる――ある意味レイラの後悔したくないという気持ちの表れでもあった。

「……心変わりしたら大変」
「姫様ならやってくれるさ」
「すごい自信。信頼してるんだね」
「そうでもないよ」
「……え?」
「僕は姫様が信じるものを、信じているだけだよ」
「何言ってんの? 意味分かんない」

 ラパンは理解出来ない存在を見るようにルーンへ辛辣な言葉をぶつけた。レイラも何を言っているのか分からなかった。

「私が出会った時からこういう感じなんで、あまり気にしないでください」
「そうそう。大した意味は無いんだよー」

 ルーンはふざけた態度で笑っていた。こうしてみると、本当に大した意味はないように思える。だからこそ、奥底で何を考えているのか気になってしまうのかもしれない。

「……あっそ」

 ラパンはルーンの態度に呆れつつ、興味無さそうにそっぽを向いた。
 レイラは正直、言葉の真意を知りたかったが、深く聞かなかった。ルーンがへらへら笑っているときは、大体はぐらかされるからだ。
 それよりも、今は目の前にいるラパンのことを気がかりだった。彼女の抱えているものは分からないが、ルメイユ山で少しでも和らげられたらいいな、とレイラは思っていた。