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 最初は相容れない者同士、敵対していたはずなのに、途中から空気が変わっていった気がする。葵は気付いていたのだろうか。あの場所に割って入るのは、どこか気が引けて紫苑は見守る事しか出来なかった。決して、葵のことがどうでもいいわけではない。柘榴のことも、気にしていないわけでもない。
 ただ、あの二人の間に、最良の終わりが訪れることを願っていた。一方で、ミュオソティスは険しい表情を浮かべている。散々な言われようだったからだろうか。

「……柘榴は決して強くは無いが、私と同じように人の心を操れる。リマとは違って、適用範囲も桁違いだ。人間に興味がないとはいえ、利用出来るものは利用する、奴の心の表れかもしれんな」
「へぇ、やるねぇ」
「とんでもない奥の手ですね」

 ミュオソティスの説明を聞いて、竜胆やミオネは納得しているようだった。紫苑だけは相変わらず付いていけてなかった。

「何が起きているの? 何で葵は何もしないの」
「葵の黒猫への敵対心を操作したんだろうねぇ。簡単に言えば、葵がやる気を喪失させたんだよ」
「……それって、ズルくないですか?」

 紫苑の抱いた感想はとても素直で残酷なものだった。柘榴がどれだけ頑張っていようが、心を操るというのは見過ごせなかった。空魔はやはり、人の思いを踏みにじる存在だと、改めて思い知らされる。

「それだけ、本気なんだろうね」
「そこまでして?」
「黒猫も、なりふり構っていられないんだろうさ。というか僕よりも、紫苑の方がそこのところ、詳しいんじゃない?」
「そう言われても、柘榴のことほとんど分かっていません。柘榴は自分から教えてくれたんですけど、理解が追い付かないと言うか、受け入れられないっていうか……」

 柘榴はクロであり、紫陽である。聞かされた時は驚いたものの、元はといえば、自分のせいだった。
 それでも、柘榴は紫苑のことをずっと思っていた。痛みを引き受けていてくれたことに関しては、感謝している。その一方で、空魔として人に害を与えていた部分から、目を逸らしていいものかと思ってしまう。都合の良い時だけ、有難がって、悪くなれば手のひらを返す――自身もまた、卑怯な存在だとつくづく思う。

「……私はお前より、愚かな人間を見てきた」

 静寂を裂いたのはミュオソティスだった。色んな歴史をたどってきたミュオソティスは、思うところがあるのだろう。

「話し合いもろくにせず、争いを繰り広げるばかり。世界は広いというのに視野はとてつもなく狭い――全ての人類がそうでないことは分かっている。だが、世界には分かり合えず、繋がりを諦め、消え去って行く者もいる」

 もっと、話していれば――紫陽に抱いた感情を思い出していた。本当は、こんなはずではなかった。最初から、憎かったわけではない。

「お前の本音を伝えてやれ。奴は……柘榴はずっと、お前を待っていたんだ」

 見て、感じたことを真っ直ぐに伝える――簡単なようで、難しいこと。
 けれども、その単純なコミュニケーションが出来ないから、人は擦れ違ってしまうのだ。大事なことは言わなければ、伝わらない。紫苑はミュオソティスの言葉をじっくり、反芻する。
 
 何を伝えたいのか。どうしたいのか――

「……どうやら、決着が付いたみたいですね」

 考える暇もなく、世界の終わりは刻一刻と迫っていた。