今から話すのは、どこにでもあるようで、どこにもない話。ありきたりだけど、当の本人には大事な話。その前に色々と説明しておく必要があるから、言っておくよ。
紫苑も知っているだろう。君には家族がいた。父親、母親そして弟の四人家族。記憶を失っていた頃は、弟がいることぐらいしか覚えていなかったはずだ。そこは僕が封じた部分だから。特にこの世界……空魔がいる世界における、君の弟はどうしようもない奴だったからね。紫苑を殺そうとしたんだ。色々と拗らせていた奴だ。可哀想な奴だ。黒猫に嫉妬したんだよ。そんで、もみくちゃになって紫苑と相討ち――紫苑は自分が殺したように思った。
違うのかって?
違うんだよ。真相はこの世界の僕が――黒猫が空魔になって弟を殺したんだよ。紫苑はショックで倒れただけ。こればっかりは、紫苑の記憶で補完出来ないから、仕方ないんだけど。この世界の紫苑は誰も殺してないよ。殺したのは黒猫さ。黒猫はミュオソティスの力を借りて、空魔になったんだ。黒猫の空魔は弟を喰って、その場から逃げた。取り残された紫苑が、星影竜胆に引き取られた。
んで、黒猫の空魔はもう説明しなくても分かると思うけど、君がクロと呼ぶ黒猫――それが僕。柘榴はミュオソティスがつけた名前だよ。あまりにもそのまんま過ぎるからって。記憶や痛みを引き受けられたのは、全てミュオソティスのおかげ。
だから、彼女の言うことには逆らえないんだよ。駒が欲しかっただけとはいえ、頭が上がらないよホント。空魔になった僕は、紫苑の動きを見ながら時期を見ていた。全てが繋がるときを待っていた。ミュオソティスには言っていたよ。僕は紫苑のために動くって。彼女も大事な人がいるみたいだし、そこまで鬼じゃなかったのが幸いだ。
で、これがどう話に繋がっていくかって言うと――それは一度、思い出してからにしようか。
君の血の繋がった弟――月宮紫陽のことを。
だけど僕が思うに、紫陽を一番よく知っているのは、紫苑じゃないかな。
ほら、思い出してみなよ。君が本来持っていた記憶……思いを。