不連続世界

 答えを探して、巡る、めぐる。世界を廻る。私はどこから来て、どこへ行くのだろう。どれだけ見ても、答えが出ない。終わりを求めて、彷徨い、色んな世界を見てきた。その果てにやっと答えを見つけたが、私にはどうしようも出来なかった。後悔も、抱いていた感情も全て、失ってしまった私には何も残っていなかったから。当て所なく彷徨い続けた日々が全て無駄になったと思ったとき――世界は何事も無かったかのように、違う道を描き出した。

「貴方との出会いは運命でした」

 彼女との出会いは、私の感覚的にはちょっと前の話。
 貴方は私と似ていた気がする。大切なものを失ってしまった身体。終わりを求めて彷徨い続ける魂。あまり人に介入してこなかったけれど、そのまま通り過ぎることも出来なかった。簡単に言えば、目が離せなかったのだ。
 だって、彼女は私を見ていたから。間違いなく、私を見ていた。私の姿は当の昔から、誰の目にも止まらないと思っていたのに。忘れ去られたものだと、思っていたから。私は彼女に見つけてもらって、思い出したのだ。
 自らの中に隠した後悔を――願いを、未来を。私は再び自覚するのだった。

 しかし、私は消えなかった。この結果に満足していないのか。どうしてか、少しばかり悩だが、すぐに気づいた。この人間が死んでしまったら、私はまたこの世界から忘れさられてしまう――

 どうしようかと考え、私は彼女の心を覗いた。彼女の心は、大事なものが抜け落ちてしまったかのように、空っぽだった。手遅れなのかもしれない。
 だが、彼女の心は痛いほど叫んでいた。私が声をかけると、ちゃんと応えてくれる。

 私はこの人間をこのまま、死なせるのはよくないと思った。

 私は、一か八かやったことはないけれど、彼女の意識を別世界に放り込んだ。こんなことをして何になるのか――それでも、私は見捨てられなかった。受け皿となる世界がどんな世界かは分からないけれど、こんなところで死んでほしくないと願った。奇しくも彼女も同じ思いだったおかげか、移動は上手くいった。

 そこからは、色々と大変だった。飛んだ世界は”空魔”という存在がいると知った。なんでも”私”の心から生まれた怪物らしい。初めてみる世界だった。ずっと観察を続けていたけれど、どうやらこの世界の”私”は厄介者らしい。そして、どの世界の”私”よりも複雑な心を抱いている。私はこの世界をしばらく観察して気付いた。

 ここは感情を正当化する世界なのだと――
 
 ここでは負の感情は空魔という化物になる。この化物は人や人の心を喰らうとされている。空魔の台頭はこの世界に組み込まれた、プログラムのように思えた。人が抱いた負の感情の処理を空魔に任せている――といったところか。空魔の発生原因となる人間を、空魔で処理するといった、何とも言えない半永久機関――なるほど、これなら”私”の存在は忘れられなくて済む。
 だが、私は正直に言うとあまり良くは思わなかった。

 だって、ずっと悲しみを抱き続けなければいけないから。私はその悲しみから解放されたいと願っているのに。

 空魔の存在は、この世界の”私”が現実に耐え切れず、嘆いた結果であるのは容易に想像出来た。現実から目を逸らし、悲しみを全て自分から追い出すように、空魔を作った。その感情が間違いではないと、主張するかのように空魔は蔓延る。

 同じ”私”のことだから、何となく分かる。もっとも私の場合は、何もかも抜け落ちてしまったから、あまり実感はないけれど。もしかすると、ここでなら”私”の後悔が詳しく分かるのかもしれない。
 私と似た、彼女が望んだ世界でもあるのだ。今の私にはしっくりこないけど、もっと見ていけば何かがあるかもしれない。

 手始めに私は”私”と接触しようと思ったが出来なかった。どうやら、空魔しか入れないような特別な場所らしい。私の力を持ってしても、干渉は出来なかった。どうにか、潜り込めればと思っていたが、またとない機会が訪れる。この世界へ放り込んだ”彼女”が”私”と接触するかもしれないという話。私はこのチャンスを逃さないように、彼女の中に入り込んだ。
 
 そして私と彼女は、この世界で生きる者たちの罪と業を知るのだった――

「なんて、全く不思議な話ですよね。結果が違うだけで、世界はこんなにも分かれて、交わらなくなるのですから」

 どこまでも、世界は平行線。だからこそ、選ぶときは慎重にならないといけない。失敗してもなるようになるけれど、どう転ぶかまでは分からない。得てして、現実とはそんなもの。だから、あまり期待しない方が良い。裏切られたら、その分ショックが大きいから。

「だから、私は――手を伸ばしてしまったのでしょうね。貴方も、似たようなものじゃない――クロ?」
「さぁ。でも拾ってくれたことには感謝してるよ。こうでもないと、話す機会なかったから。後悔はしてないよ」

 私は彼女の側に寄り添う、黒猫に話しかけた。黒猫は本来ならば、箱の中で誰の目にも触れず、息絶えていた。
 しかし、私は黒猫に宿った強い感情に触れた。黒猫にも、私が見えていたようだった。私は黒猫の中に残った僅かな意識と、側に居た人間の力を使って、彼女と同じように他の世界へ意識を飛ばした。ついでだったけれど、こっちも上手くいったようだった。

「貴方は、彼女のために動くの? それとも自分のため?」
「どっちでも、変わらないよ。行きつく先は同じだし」
「そうね。貴方はずっと、そう。これから先、幸せがなくとも、貴方はそうやって生きる」
「元より幸薄いからね。今更、失ったところでどうってことないよ。今この瞬間、側にいられるだけでも、十分すぎる」

 黒猫の願いは、笑ってしまうくらい純粋。純粋だからこそ、芯が強く揺るがない。

「……本当に良く出来た猫です」
「君にはそう見えるんだ」

 黒猫は少しだけ複雑そうな表情をした。その理由はきっと、その姿にあった。今の黒猫は人の形をしていたから。その原型となった人間は果たして誰なのか――猫は賢いから知っているだろう。猫は特にその姿に不満は持っていなかった。
 しかし、割り切れない部分はあるようだ。

「貴方が自分をどう認識しているか……大事なのはそれだけです」
「どっちでも……とは、さすがに言いたくないな。こればっかりはねぇ」

 私の言葉に対して、黒猫はごまかすように笑うのだった。