「世界も百年ちょっとじゃそこまで変わらないか……」
百年――人間からみればかなりの時間だった。だが、半永久的に生きる者にとっては刹那に過ぎないだろう。
「よくもまぁ、マリエルは生きていられるな。今も生きているんだと思うと、末恐ろしいね」
旅人は大樹に背中を預ける。この木は百年以上、いやもっとそれ以前から生え続けている。周りには不思議な花畑も広がっている。かつては恐ろしい、肉食植物もいたが次代の流れによって淘汰されていった。人々が立ち寄らなくなったせいだろう。観光地だったのも、過去の話でいつしか忘れ去られた場所になっていた。
「確かにここから見る景色は悪くないけど、金を払ってまで見たいかと言われたら……人それぞれだね」
景色を見る為に金を払う行為は旅人にはまだ理解出来なかった。そもそも、自分の力でどこへでも行けるおかげで価値が薄まっているのかもしれない。旅人が一般人であったら、この花畑を見て感動することが出来たかもしれない。
「色んな場所に行けるってことはそれだけ、色んな景色を見られるってことだ。経験値をたくさん詰められる。身になるかはおいといて……」
旅人は様々な場所を見てきた。同じ場所でも数年たてば様変わりする。ヴィオレットは一時、人がいなくなり滅んだかと噂されていたが、人々の努力によりかつての賑わいを取り戻したという。逆に栄えていた場所が、衰えていくといった事態も起こっていた。世界というのは、慈悲深くてそれでいて残酷でもある。
「……こういう話をしたかったわけじゃないんだけど。まぁ……いいか。君がそれでいいなら」
旅人の側で菫色の髪の少女は無言で見つめていた。反応も希薄で言葉を発することはなかった。ただ、物珍しそうに眺めていた。こんな場所に何の用だろうか――純粋な疑問を抱いているのかもしれない。旅人は少女の頭に張り付いた花弁を払う。触られたとしても、少女は何も反応しない。ただひたすら、旅人だけを見ていた。
「改めて自己紹介しよう。僕は旅人であり、しがない魔法使い――ルーン・アステラさ。君に会える日を待ち続けた、馬鹿な人間だよ」
少女の表情は変わらない。だが、唇が少しだけ動いた。か細い声だったが、少女は旅人へ自身の思いを告げる。
「ありが、とう」
たくさんの花弁が祝福するように舞い散る中、紫の少女の思いは雪解けから芽吹き、花を咲かせたのであった。
~THE END~