追い求め続ける者

「はぁ~サランドもメジアも変わんない。どっちへ行っても、何も楽しくない。何か起こらないかなぁ……って、ガキみたいなこと思っちゃうじゃない。あーあーつまんないの」
「暴れたらいいじゃない。これまでと同じようにさ」

 ミリィ・メルはこれまでと変わらずに各地を転々としながら、魔術師として過ごしていた。メロディアとはほとんど会っていない。今は忙しい時期だろうと思い、遊びには行かなかった。代わりにクロエの下を訪れていた。クロエはサランド大陸にいて、カフェで暢気にケーキを食べているところへ押しかけた。クロエは一人でケーキを食べており、連れのアルノはどうしたのかと聞いたら、買い物を命令したようで、しばらく帰ってこないという。相変わらず、こき使われているようだ。

「目を付けられすぎて出来ないわよ。これでもねぇ……心入れ替えて何でも屋みたいなのやってるのよ? でも地味! 探し物とか、要人の護衛とか……こういうのじゃないっての」
「私は仕事選んでるけどね。金なんてそこら中にあるわけだし? なんなら、強奪すればいいだけだし」
「……アンタ時々、アタシより終わってるわよね」
「クロエほどじゃないって」

 クロエはミリィと同じように請負人のようなことをやっているようだった。だが、つまらないようで悪態をついていた。ミリィとしては、面白くないことはしたくないので仕事の内容を見ながら決めていたので共感出来ない悩みだった。そもそも、自分が思ったことしか言わないのでミリィに悩み相談は向いていなかった。クロエもただ愚痴を吐きたいだけのようなので、怒りもしなかった。
 ミリィはドリンクを頼み、クロエの話を聞いていた。特に面白いことも無いが、かつての態度からかなりしおらしくなったと思う。こういう突っ込みをすればキレるだろうが、ミリィは敢えて言わなかった。特に、面白くも無いからだ。

「この世界、変わりなく回ってるわよね……レガリアなんて最初からいなかったみたい。長い夢を見ていたみたい」

 ぼんやりとした様子でクロエは呟く。まだ数年しか経っていないがクロエにとっては遥か過去のように思えるのだろう。ミリィにとってはつい最近の出来事のように、記憶に残っていた。あれはこの世界の秘密にかなり触れることが出来た事件だった。だが、肝心の内容は不透明な部分が多く、それだけが心残りである。

「秘密は分からずじまい。ルーンにも会えないし、何があったのか聞きたいのにさ。本気で隠れられると難しいな。仕事の合間に探してるけど見つからないのなんの」

 ミリィは真実を追い求めて、ルーンを探していた。最後に観測したのはレガリアがいなくなった直後だった。ヴィオレットの付近でレイラと旅立ったあたりだ。そこから、レイラもいつの間にかいなくなっていた。両者の気配は感じられない。話だけならレイラに聞くのもよかったが、彼女も見つからない。何があったのか――この世界に起きた事象をミリィは解き明かしたかった。

「何があったのか知っているのはそいつだけなの? 他のお仲間は?」
「地上にいたから分からないって話だよ。上に拠点があるなら仕方ないか。クロエは本当に何も知らないのー?」
「アタシですら駒扱いだったし、知るわけないっての! グラスがどうとか、器だとか聞いていてもさっぱりよ。器を使って世界を支配しようとしていたってことじゃないの?」
「……私の予測でしかないけど、レガリアは器が世界を支配するわけではない。魔力が強い人間の身体を乗っ取って、グラスの力でも使おうとしたんじゃないかな。理論上では世界を創りかえることも可能と言われてたし。ただ、その力を扱えるほどの人間はまず存在しないから、夢物語みたいな話だったけど」

 夢だった話は現実へと変わる――レイラの存在によって、レガリアの夢は打ち砕かれた。レガリアもかなりの力を持っていたが、それでもまだ足りなかったのだろう。災厄の封印を解かせることによって、魔力を高めグラスを扱えるようにまで成長させ、レガリアの下へ器を届けるのがルーンの役目だと思われる。そこまでは想像出来るのだが、肝心のレガリアの城であった出来事だけピースが欠けている為、永遠に不完全なものになってしまった。

「それがあのお姫様ってこと……世界を創りかえる、か。あーあ……アタシも欲しかったなー! 世界を変える力って素敵じゃない?」
「けど、何の代償もなしにそんなことが出来るのかなぁ」

 レガリアはグラスの力を使って世界を変えようとしていた。しかし、本当にグラスにそんなことが可能なのか――力の根源で人の思いに応えるグラスなら可能なのかもしれないが、ミリィは疑問に思っていた。夢物語と言われていたのに、レイラが高い魔力をもって生まれた以上、夢でなくなる。そうなれば魔力さえあれば、誰でもノーリスクで願いが叶えられる可能性が出てくる。果たして世界がそんな無秩序な行いを許すだろうか。
 そう思っていると、今思い出したかのようにクロエが呟く。

「願いを叶えるには相応の代価が必要……レガリアの周りを漂ってたユラギが言ってたわ。正直、アレも何だったのか分かんないけどさ」
「……やはりそれなりに支払うものがあるってことね。もしかして、ルーンが見つからないのは――」

 ミリィはそこまで考えて、打ち切った。これ以上は、本人にあって確かめるしかない。そうすれば分かることだ。真実は自分の目で確かめるのみ。考えていたって始まらない。

「この世界にはきっと、忘れちゃいけない事がたくさんある。誰も知らないことだってあるだろうし……追い続けるしかないわね。無理なら記録を残して、次に繋ぐぐらいの執念は見せないと」
「何がそこまで駆り立てるの? 分かんないなら、どうしようもないじゃない」
「私は真実を開けた先に見える未知を欲しているのさ。自分の想像外を行く世界を見てみたいんだよ。でなきゃ、人生楽しくないっしょ!」

 ミリィはパッと立ち上がり、クロエの前から風のように消えていった。クロエははぁ、と大きなため息を吐いた。
 そして入れ替わりにアルノがたくさんの荷物を抱えてやってきた。

「……ただいま。言われたもの買ってきた……なんか疲れてるみたいだけど、どうかした?」
「よく分かんないヤツがよく分かんないこと言って消えたから、呆れてるのよ。タルト追加で注文しといてー」
「分かった。荷物はおいとく」

 クロエはミリィの残した飲み物の残骸とアルノが置いていった荷物を見ながら、ケーキを食べ進める。甘いものを取ればマシになるかと思ったが、そうでもなかった。ミリィと話すと余計なことばかり考えてしまう。振り回されてばかりだった。だが、そのミリィですら出口の無い迷路を彷徨っているように見えた。これには少しだけ、面白いものを見せてもらったと思った。ミリィが真実へ辿り着けるのか見届けるのもまた、一興か――クロエは心の中で笑うのだった。