Pororoca

© 2018 Pororoca

Template&Material @ 空蝉


「誰がどう思うが、気にしたら負け。私は私。私の時間は今しかないし、楽しまなきゃ損じゃない?」

 理真らしい意見だと思う。他人の気持ちなどお構いなしに、ずけずけ入ってくる傍若無人っぷり。悩みとは無縁そうで羨ましい。

「失礼ね。悩みくらいはあるわよ」
「何も言ってないけど……」
「霞のことなら何でも分かるわ。分かるでしょ? 私の気持ち。私たちは深く繋がっているから」

 うっとりと微笑む理真。恍惚に満ちた表情は、触れたら毒が回りそうな危うさがある。彼女の言葉の真意が読み取れないまま、問いかけた。

「どういうこと?」
「私のことを知りたいと思うなら、霞は知ることが出来るし、私も霞のことを知ることが出来る。これって相思相愛じゃない?」

 僕の質問に答える気配はないが、言葉の端々から知らない方がいいと思わせてくれる。こんな場所にいる時点で手遅れな気もするが、もう過去には戻れない。理真は普通の少女に見えて、少し浮世離れしている。浮世離れというか、世界というレールから外れてしまったというべきか。何もかもが狂っているように思える。人であって人じゃない何かのような――

「いずれ分かるわ。それだけ覚えていてくれたら、霞は幸せになれるよ」
「大した自信だね」
「アハッ、事実だし。私は自分に嘘つかない。在りのままでいるのに、嘘つく必要はないもの」

 在りのまま――と言った彼女の姿は清々しいほど綺麗だった。僕も飾らずに生きていられたら、どんな風になっていたんだろう。もしもの話など考えても、自分を簡単に変えられない。何かしらのきっかけが必要になるだろう。
 僕の在り方は真実からあまりにもかけ離れていた。本音は一体どこにあるだろう。自由も何もなくて、僕は何がしたいんだろう。

「ねぇ霞……貴方は今、自由?」
 
 彼女の問いかけに答えられず、今日もまた深く沈んでいく。自分という存在が溶けてゆくまで、時間はかからなかった。